使いやすさを追求したレイアウトは、繊細さとダイナミックさが融合
※こちらの記事は2020年12月発売のカーネルvol.48に掲載したものです
リアゲートを開けると、ベッド下には、たくさんの仕事道具が積み込まれている。建築から店舗などの内装のデザインまで、いろいろな現場で大工として活躍してきた鈴木大地さんにとって、このクルマは仕事道具のトランスポーターであり、大切なパートナーでもある。
車内へ乗り込むと、インテリアはリアゲートから見える景色から一変し、まったく違った表情を見せてくれる。美しい木目が広がり、包み込まれるようなやさしさを感じるのだ。そして、規則正しいテクスチャーがさらに心地よさを加速させる。
ウッディなインテリアは、ログキャビンのような、ワイルドな空気感を漂わせている。しかし、不思議とラフな印象を感じることがない。そのすべてが計算されつくし、一つひとつの部材が、正しい位置に収められているからだろう。まさにプロフェッショナルの技といえる。
鈴木さんが、ベンツのT1Nを手に入れ、クルマを作るきっかけとなったのは、職場での出合いであった。
「仕事場にあった本に、バンライフのクルマが載っていて、自分が求めているのは、これだ!という直感を感じました」と語ってくれた。
制作当時は資料も少なく、海外ユーザーのSNSなどを参考にしながら、試行錯誤を重ねた。レイアウトの概要は決まっていても、細かい設計図があるわけでもなく、作りながら、自身の感覚で細部を作り込んでいった。おかげでダイナミックなデザインが生まれ、全体的なまとまり感も強調されている。
ワークショップの開催やイベントサポートなど、クルマを使うシチュエーションも増えてきた。そんなとき、使いやすさを左右するのが、道具の積載量と取り出しやすさ。リアに広いラゲッジスペースを確保したのは、そのためだ。
さらに、疲れた体を休めるためにも、快適な居住空間を確保することも大切。快適性を追求するには、ストレスフリーな動線を確保できるレイアウトと、くつろげるスペースを設けること。
鈴木さんにとって、少し高めに設定されたカウンターがお気に入りで、自身でハンドメイドしたチェアに腰をかけると、ほっと落ち着いた気分になれるという。
車内環境を向上させるため、壁で見えなくなっているが、車体と木材の間に、しっかりと断熱材が入れられている。このようなレイアウトであれば、必然的に車内で過ごす時間も長くなるし、厳しい環境での作業も多くなってくるので、その効果は大きいといえるだろう。
電源システムでは、サブバッテリーを搭載。ソーラーパネルからの充電ができる仕様だ。壁にアウトレットコンセントを設け、コーヒーメーカーを使ったり、スマホ充電や電気毛布など、家電品を気軽に利用できるようになっている。
寒さ対策としては、窓からの冷気が流れてくるのを防ぐために、カーテンを設置。カーテンは試行錯誤して、現在のタイプに落ち着いている。
また、暖かい機能性を発揮する布団を使っているので、寒いときは布団に潜り込むだけで、寒さを感じることはないという。実践での車中泊経験で裏付けされたセレクトなのだ。
オーナー 鈴木大地さん
大工としての経験を活かして、バンライフ、車中泊車両を製作したり、ワークショップなどを開催する行動派。移動できるモバイルハウスとなる、自身のクルマを作って、リアルなバンライフを楽しんでいる。
愛車はベンツのトランスポーターT1N。海外ではバンライフの定番車両で、高さがあり、室内の広さが特徴。リアサイドにガラスの入っていないモデルをセレクトすれば、架装もしやすい。
キャリアの上に載っているボックスは防災を意識して、いざというときのアイテムを収納するためのスペースとなっている。
まだまだあります、こだわりの車内DIY
上段の棚はエントランス側にぐるりと回った特徴的なデザイン。製作途中で思いついたアイデアも多く、カウンターを伸ばしたのも、製作途中のアイデアだったという。
カウンターの上部にはお酒などがちょうどよく収納できるラックを設置。ロープを使ったハンガーにはカップなどが吊り下げられている。
ベッド下の収納スペースは室内側にも扉が付いていて、荷物の出し入れが可能。ポータブルトイレはいざというときの非常用。ベッドサイズは横1800㎜、奥行き1400㎜。
室内壁の両サイドに取り付けられた照明がアンティークな雰囲気を醸し出す。船舶用のライトをエイジングリメイクをして、電球を好みの暖色LEDに変更した。
エントランスを入ると目に飛び込んでくるのがこの光景。鈴木さんのクルマ作りは、エントランスから見える第一印象を大切にしているという。
棚などの基本的な構造材は強度の高い26㎜の合板を使っている。
発電機は予備の電源として確保。
フロアは土間をイメージして、一般的な建材のタイルが貼られている。エントランス部分はその上にラグマットを敷いている。
写真:中里慎一郎、文:渡辺圭史、出典:カーネルvol.48 2021年冬号