CES(シー・イー・エス)は1967年から続く家電や電子製品に関する世界最大規模の見本市で、コンシューマー・エレクトロニクス・ショーの頭文字を取ったもの。『カーネル』2024年1月号のレポートでも紹介した、やはり世界最大のカスタムカーの祭典SEMAと同じロケーション、ラスベガス・コンベンション・センターで1月9日から開催された。
CESとしては55年以上の見本市開催の歴史をもつが、主催者であるコンシューマー・テクノロジー・アソシエーションの誕生はいまからちょうど100年前の1924年。誕生から100周年となる今年は、このイベントにとっても特別な意味をもつ年だったといえよう。
さて読者の皆さんのなかには、インターネットのデジタル系ニュースなどでCES2024の内容を見た人も多いと思う。現状で一般的な日本のネットニュースで取り上げられるのは、誰にもわかりやすいエレクトリック・ビークルに関する情報だ。
SEMAレポートでも記したとおり、筆者は個人的にはEVの未来に関しては懐疑的にとらえているが、現在のテクノロジーの進化においては、EVの存在やその開発の方向性、そして発展スピードは無視できない事案なので、そうした状況も加味したうえで、今回のCES2024をレポートしたい。
前述したとおりニュースソースとしてはEV関連が注目されがちだが、CESの本質はデジタルテクノロジーとそれらを活用した、最新の生活環境がどのように進化し変化して行くのか? さらに具体的には家電製品などを中心とした最新のプロダクツやその周辺商品と最新技術に注目したい。
CESとは決してEVの発表会ではなく、そうしたテクノロジーを知り、未来を考えるための機会ととらえた方がいいだろう。
ユーザーの毎日に浸透したきめ細かいサービスを提供
世界中で広く利用されているテックカンパニーのグーグルは生活の隅々まで浸透する“便利な暮らし”を毎年提案。Google マップはナビゲーションの分野で革新的な役割を果たし、Gメールやスケジュール管理をはじめとしたサービスは、PCや携帯を通じた日々の暮らしに欠かせないという人も少なくないだろう。
今回の展示の中心は自社製端末を押し出すのではなく、あくまでもプラットフォームとしての役割を意識し、さまざまなブランドのデバイスとも瞬時につながるコネクティングテクノロジー。
全てのデバイスを持っていれば便利だけど、囲い込み感の強いアップルとは異なる、世の中の基本インフラとしてのプライドを感じた内容だった。
SONY
プレイステーションと映像記録技術で世界をリード
高い映像技術でプレイステーションを通じ、ゲームやエンターテインメントの領域で他の追随を許さないソニーブランド。
歴史のある高解像度映像記録技術でユーザーに没入感のある体験を提供するこのサービスは、映画制作会社をもつことで、そこで得られた映像制作技術をゲームの世界に取り込める利点も。また今回は発売されたばかりのプレイステーションのアクセスコントローラーの存在も光った。
ひとりでも多くの人にゲームやエンターテインメントを体験してほしいという、すばらしい企業姿勢の現れだ。
LG
家電メーカーであることを大切に、ユーザーフレンドリーな展示が魅力
CESで最も大きな展示スペースで、圧倒的な集客力を誇るのがサムスンとLGだ。そのなかでもLGは有機LEDを使った先進的なディスプレー技術を全面に押し出したり、ユーザーに直感で訴えかけるテクノロジーをうまく取り入れ、いわゆる家電品を巧みなプロモーション方法で消費者に訴えかける空間を提供している。
今年の目玉は前述の有機LED技術を使ったガラスのように透明になるディスプレーだ。まさにSF映画に登場しそうなクリアディスプレーは、透明度を調整できるようで、新しい映像空間の創出や、また狭い部屋の中心に大きなテレビを置いても閉塞感を感じないような演出ができると話題になっている。
生活密着型で見る人を引き付ける細かな商品開発と展示の手法は、いま一度、日本のブランドにも初心に戻って意識してほしい企業PR戦略だと毎年痛感する。
ZOOX
まもなく始まる自動運転タクシーサービス
カリフォルニアの企業ズークスは、独自デザインの自動運転車両を活用した完全な無人タクシーサービスの提供を目指す新興企業。
同社の自動運転技術は高度なセンサーや人工知能を活用し、安全性や正確なナビゲーションを実現。乗客はアプリを通じてタクシーを呼び出し、目的地を指定するだけで自動的にクルマが迎えにきて、目的地まで安全かつスムーズに移動が可能。
シンプルなポッド型のオリジナル車両には、4人が対面して前後に乗車でき、室内には携帯電話などのデバイスの充電機能なども備える。
ドライバーがいない無人運転車両だが、もちろん全乗員向けに安全性は確保されていて、アクシデント時にはそれぞれのパッセンジャーの体全体を包み込むエアバッグが展開する。各車両は1度の充電で終日運行することができるという。
写真、文:Yusuke Makino, June(カーネルUSAブランチ)
初出:カーネル2024年3月号vol.65