【概要】信州の車中泊旅ガイド② 標高1000m以上の高原や名所を車中泊の旅人・ruiが紹介。 

夏の車中泊は北海道に行かないと無理? いえいえ、本州にだって夏でも涼しい所はいっぱいあります。

標高を上げれば気温も下がる、そうなれば向かうのは高原! 夏でも涼しい信州の高原をめぐる、快適な車中泊旅スポットを紹介!

「心から しなのの雪に 降られけり」

故郷である長野県の北部、柏原宿(現在の信濃町)に帰ってきた小林一茶が、父の遺産をめぐり家族と争ったときに詠んだ句である。

悲痛な心境を「しなのの雪」と詠むほどに、信州の冬の厳しさが伝わってくる。

日本アルプスや八ヶ岳連山、白馬連峰に囲まれ「日本の屋根」ともいわれる長野県は、その大部分が高原地帯。

なので、厳しい冬とは裏腹に夏は涼しく、避暑地やリゾート地として古くから多くの旅行者が訪れる定番スポットとして名高い。

「標高が1000m上がると気温は約6℃下がる」、車中泊に慣れた人ならご存じの人も多いこの法則。

信州の高原地帯は2000mクラスの場所でもクルマで行けたりするので、理論上、都市部より12℃低い場所で過ごすことができる。

今回の取材ではゴールデンウイークに美ヶ原高原に訪れたが、夜は氷点下まで気温が下がり、慌てて冬服に着替えたほどだった。

かつては甲斐の武田信玄と越後の上杉謙信が川中島で何度も激しく争い、江戸時代になると五街道のひとつ・中山道が整備され、多くの人馬が往来し、多数の宿場がにぎわった信濃国。

街道沿いの宿場はいまでも保存され、当時の面影を知ることができる。善光寺や諏訪神社など全国的に有名な歴史遺産や、豊かな山岳の魅力に取りつかれた文学者が長く滞在し、作品を残した街も多い。

フォッサマグナの西端・糸魚川ー静岡構造線が走り、火山活動も活発だったこの地域は、北海道に次ぐ温泉の宝庫でもあり、どこに行っても温泉郷がある。

[標高1500m付近]志賀高原

一年中見どころ満載のユネスコエコパーク

SORA terraceへ続く世界最大級の166人乗りロープウェイで一気に標高1770mまで上がると、高確率で雲海が見られる。カフェテラスもあり、麓にはグランピング施設も併設の絶景高原リゾート。

最初の名誉村民は岡本太郎 野沢菜の発祥地

志賀高原から少し北に足を延ばすと、日本で唯一、村の名前に「温泉」がつく野沢温泉村がある。古くから湯治場として栄え、信州名物・野沢菜の発祥の地でもある。

国内屈指の野沢温泉スキー場のおかげで古き良き温泉街としてだけでなく、若者にも対応したスポットも混在している。

地元の人が日常的に利用している天然温泉かけ流しの共同浴場が13カ所あり、旅人も無料で入ることができるが、各湯の入り口の賽銭箱に必ず気持ちを入れてから利用しよう。

じつは世界で唯一のニホンザル専用温泉

1970年、米『LIFE』誌の表紙を飾った温泉に入るサルの写真で世界的に有名になった地獄谷温泉。

もともとは、スキー場開発で山を追われたニホンザルが里では害になっていたところ、地獄谷温泉・後楽館の当主が長年にわたって餌付けに成功し、後に野生のサルの観察目的でつくられたのが地獄谷野猿公苑。

あまりに有名なのでどこのサルも温泉に入るものだと思いがちだが、じつは世界でここだけ。冬に後楽館で宿泊したら、露天風呂にサルと一緒に入れる可能性もある。

タイムスリップ感満載のレトロ温泉郷 湯田中渋温泉郷

レトロな街並みが保存されている渋温泉は、ノスタルジックな細い石畳の街を歩いているだけで風情を満喫できる。

9つある共同浴場のうち8つは宿泊者専用だが、9つ目の「大湯」は日帰り入浴可能。

『千と千尋の神隠し』に登場する「油屋」を彷彿させる「歴史の宿・金具屋」は国の登録有形文化財。モデルになったのかどうかを建築学の視点から考察している金具屋九代目のブログは一見の価値あり。

渋温泉には駐車場が1カ所しかなく、夜間は閉鎖されるので注意。

[標高1200m付近]戸隠高原

神話の時代から続く道 信州屈指のパワースポット

神話の時代、天照大神が隠れてしまった天の岩戸を、天手力雄命(あめのたちからおのみこと)がこじ開け、下界に落とし、それが戸隠山になったという伝説から、「戸隠」という名前がついた。

そのためか、古くから修験道の聖地として栄え、いまでも数々の神域が残されている。

戸隠地区は2015年に新しく「妙高戸隠連山国立公園」に指定され、飯縄山や高妻山など初心者から上級者まで楽しめる登山フィールドとして人気が高い。

また、寒暖差が激しく朝霧が発生しやすい戸隠はそば栽培に適しており、戸隠そばは岩手のわんこそば、島根の出雲そばと並び日本三大そばのひとつとされる。

戸隠神社の奥社へ至る約2kmの参道の中ほどに、萱葺きの赤い随神門があり、その先には天然記念物にも指定されている樹齢400年の杉並木がまっすぐに延びている。

立春と立冬には太陽が参道に沿ってまっすぐ昇る。

戸隠神社の中社には樹齢700年を超える御神木、樹齢800年を超える三本杉もあり、その巨木の迫力に圧倒される。

駐車場も隣接していてアクセスも容易。ここから奥社まで神道を歩くハイキングコースもあり。

[標高2000m付近]美ヶ原高原

ビーナスラインの終点 標高2000mの大パノラマ

標高2000m、日本で一番高い位置にある道の駅美ヶ原高原。高原と美術館の玄関口で、北アルプスをはじめ白馬三山・北信五岳など360度パノラマが楽しめる。

美ヶ原は日本百名山のひとつでもあり、その山頂には広大な牧草地が広がっている。

もともとは登山で有名だったが、ビーナスライン開通以来、クルマで手軽にアクセスできる観光地となった。

美ヶ原のシンボルとして有名な「美しの塔」は、遭難事故を契機に建てられた、霧の日に登山者の安全のために鳴らされる霧鐘塔で、内部は避難小屋になっている。

いまではここで結婚式が執り行われるほど、美ヶ原の象徴的存在だ。

また、長野県の中央に位置するため、王ケ鼻山頂には無数の放送・通信用鉄塔が立ち並び、「鉄塔銀座」と称されている。

道の駅と併設されている美ヶ原高原美術館には、4万坪の草原に350点あまりの現代彫刻が屋外に常設展示されている。

高山植物の宝庫でもあり、雄壮なアルプスを背景に幻想的な空間をハイキング気分で散策できる。

[標高1500m付近]乗鞍高原

自然も温泉もアクティビティもなんでも楽しめるリゾート高原

信州で最も有名な観光地・上高地へは年間を通してマイカー規制が敷かれており、松本方面から自分のクルマで行けるのは、手前の乗鞍高原までとなる。

標高が1100mから1800mの高地に広がるため都会より10℃ほど涼しく、100を超える宿泊施設が立ち並ぶ一大リゾート地だ。

近隣にはオートキャンプ場も複数あり、3つの源泉からなる温泉郷や、三本滝、番所大滝、善五郎の滝という3本の有名な滝をめぐることもできる。

また、街から遠く離れているので、夜は肉眼で天の川が見られる天体観測スポットとしても人気が高い。

トレッキングなどのアウトドア・アクティビティも豊富に楽しめ、スキーでにぎわう冬だけでなく、夏を涼しく過ごす観光客でにぎわっている。

上高地への玄関口 都会の喧騒から離れた天空の温泉郷

乗鞍高原へは、松本から道の駅風穴の里を経て、奈川渡ダムを過ぎるとたどり着く。トンネルを抜けると現れる巨大ダムと、その上に敷かれた道路を走るときの風景も圧巻だ。

乗鞍エコーラインの三本滝~乗鞍山頂は、通年で交通規制がかかっている。山頂を目指す場合、乗鞍高原観光センターなどの駐車場からシャトルバスやタクシーなどに乗り換える必要がある。

この周辺では季節により通行規制のある道路もあるので事前にチェックしておこう。

乗鞍からスーパー林道を抜け 文豪たちが愛した白骨温泉へ

「3日入れば3年風邪をひかない」と伝わる山林と渓谷に囲まれた山深い秘湯・白骨温泉は、明治以降、与謝野晶子や斎藤茂吉など多くの文人が滞在し、胃腸を患った歌人・若山牧水は何度も湯治に訪れた。また飲んでも胃腸に効能があり、郷土料理の温泉粥も名物である。

白骨温泉には公共野天風呂もあり、日帰り入浴可能。駐車場もあり、標高1400mの秘湯を手軽に楽しめる。入り口にメッセージを残すホワイトボードがあり、時々公式Twitterにアップされる。

[標高1500m付近]蓼科高原

ビーナスラインで絶景ドライブ

蓼科高原の玄関口・茅野市から美ヶ原まで抜けるビーナスラインは、白樺湖や車山高原、霧ヶ峰など信州を代表する絶景が次々現れる絶好のドライブスポット。7月ごろから一斉に咲き始めるニッコウキスゲの群落や秋の紅葉やススキ野原も見もの。

映画の巨匠・小津安二郎監督が『東京物語』以降の7作品すべてのシナリオを書いた別荘「無藝荘(むげいそう)」や、本州で一番最後に桜が咲くといわれている聖光寺など、絶景だけではないバラエティに富んだ魅力の宝庫だ。

昭和を代表する日本画家・東山魁夷の作品『緑響く』のモチーフにもなったことで知られる御射鹿池(みしゃかいけ)。

『緑響く』の実物は長野市・善光寺のお隣にある長野県立美術館の東山魁夷館に所蔵されている。

[標高1700m付近]富士見台高原

中央アルプスの南端 日本一の星空に手が届く

ほぼ岐阜県との県境・恵那山系にあたる富士見台高原は、山の中腹までクルマで行ける手軽さが人気の絶景スポット。山頂では恵那山だけでなく、北・中央・南アルプスすべてが見渡せる。

飯田市から阿智村を抜けて向かう途中には昼神温泉郷や月川温泉郷もあり、春に花桃が咲き乱れる桃源郷・園原の里など穴場スポットも多い。

阿智村は、環境省が日本で「星が最も輝いて見える場所」と認定するほど星空が美しく見られることで知られ、「ヘブンスそのはら」では、本物の星空を使ったプラネタリウムのような天体観測ツアーを見ることができる。

所要時間15分のロープウェイで上がる、標高1400m地点の「ヘブンズそのはら」。

星空ガイドの解説を聞きながら実際の星空を使って行われるナイトツアーは、プラネタリウムでは味わえないスケールの広さだ。

南信の隠れ里・新野に伝わる 伝統芸能と食べる星空

阿智村からさらに南下した、愛知県とほど近い阿南町。その中心地・新野には500年続く国の重要無形民俗文化財「新野の盆踊り」がひっそりと伝承されている。

毎年8月14〜16日に、21時から翌朝6時まで一晩中踊り続けるのが特徴で、笛や太鼓などの楽器をいっさい使わず、肉声のみで踊られる。

徹夜で踊るためシンプルでゆったりした踊りになっており、真夏の隠れ里が幽玄に包まれる。

新野の道の駅信州新野千石平の目の前には、一時Twitterで話題になった、まるで星空を閉じ込めたような「満天星」が売られている、和菓子屋つるやがある。

[標高1200m付近]開田高原

御嶽山の麓に広がる木曽馬の故郷

日本百名山にも数えられる御嶽山、その麓に広がる開田高原は真夏の平均気温が20℃前後と涼しく快適に過ごせることで知られる。

約50ヘクタールの広大な「木曽馬の里」は現在約30頭と希少な木曽馬を保護しながら、乗馬や馬車、冬には馬ぞりなどで触れ合える。

また木曽谷まで下ると旧・中山道の要所が多くあり、約1kmにわたる日本最長の宿場町・奈良井宿や、「入り鉄炮・出女」を厳しく取り締まった日本4 大関所のひとつ「福島関所」が当時の面影をいまに伝えてくれる。

中山道34番目の宿場・奈良井宿は日本最長というだけでなく、そのほとんどが当時の姿のまま保存されているので、「奈良井千軒」といわれた木曽路で一番のにぎわいをいまでも感じることができる。

[標高1900m付近]しらびそ高原

南アルプスエコーラインで駆け抜ける秘境

最大傾斜38度の急斜面に家屋が点在する下栗の里。この角度で見られるビューポイントまでは山道を20分ほど歩く必要がある。また道幅の狭い急カーブが多いので、全長7mを超える車両は進入不可能。

信州最北端の秋山郷、白馬村の青鬼集落と並び「信州三大秘境」と呼ばれている南信の遠山郷、そこから南アルプスエコーラインを登っていくと標高1900m、雲上の楽園と称されるしらびそ高原にたどり着く。

その道中には「日本のチロル」と名高い、急斜面にしがみつくように里人が生活を営む下栗の里や、日本で唯一の隕石クレーターである御池山クレーターが現れる。

エコーライン最高地点に広がるしらびそ高原には宿泊施設「しらびそ高原天の川」があり、温泉は日帰り入浴も可能、またオートキャンプ場も併設されている。その名のとおり、一年中天の川が肉眼で観察できる。

南アルプスエコーライン上にある直径約900mの長く大きなカーブが、じつは日本で唯一の隕石が衝突してできたクレーター。

直径約45mの小惑星が2万〜3万年前に衝突したと推測されており、クレーター地形の約40%が残っているのが遊歩道から眺めることができる。

[標高1300m付近]野辺山高原

鉄道ファンも天文ファンも東京から2時間半の高原

東京から中央自動車道で2時間半、長坂ICを降り、軽井沢方面に進むと、そこが野辺山高原のある南牧村だ。

普段は静かな高原野菜の一大産地だが、100km走るウルトラマラソンが開催されると全国から猛者が集まり大いに盛り上がる。

西が八ヶ岳、東が秩父山地に囲まれていることから、放送電波による電波ノイズが少ないため宇宙電波観測所が建てられている。一般公開されており、無数の巨大な観測機が立ち並ぶ姿を間近で見ることができる。

またJRおよび普通鉄道の駅として日本で一番標高の高い野辺山駅もあり、鉄道ファンの聖地となっている。

45m電波望遠鏡や10mミリ波干渉計など100基あまりのアンテナが立ち並ぶ野辺山宇宙電波観測所。

電波ノイズの少なさだけでなく、水蒸気の少なさや、小海線のおかげでアクセスがよいなど複合的な要因でこの地が選ばれた。なお、見学時には携帯電話の電源を切る必要がある。

最も標高の高いJR駅・野辺山駅の標高は1345m67cmで、1の次は3から順に数字が並ぶため非常に覚えやすい。

近くの鉄道最高地点にはかつて、停車して写真を撮るためだけの「フォトデッキ駅」という幻の駅ができたことがあった。

rui プロフィール

ホンダN-VANをDIYして、年間300日以上車中泊しながら日本全国を旅する人。もともとサウンドデザイナーだったが、旅の風景を写真や映像で撮るようになり、現在はライターとしても活動中。

写真、文:rui 
初出:カーネル2023年7月号vol.61