6月にアップルが発表した「Vision Pro」というデバイスをご存じだろうか?
3499ドル(約50万円)という高価格もあって、多くの人が「私には関係ない」と考えていることと思う。
しかし、このデバイス、実は車中泊専門誌『カーネル』読者に強くおすすめしたい逸品なのだ。
筆者は、Vision Proの発表されたWWDCに行っていた。
WWDCとは「世界開発者会議」の略で、アップル本社や近辺に世界中のアプリ開発者を集めて、近い将来発表されるiPhoneやMacのOSの仕様について、情報公開が行われるイベントだ。
今年も、秋の新しいiPhoneに搭載される予定のiOS17やmacOS Sonomaが発表された。その場所でVision Proも発表され、限られたメディアに対して体験の機会が与えられた。
日本人でこの機会を得られたのはたった8人。幸運にも筆者はVision Proを体験することができた。
アップルはVision Proを最善の状態でメディアに公開するために、仮設のリビングルームを作った。
そしてクッション材やベルト、視度補正、空間オーディオの設定を個々にフィッティングし、約40分の時間を与えてくれた。限られた人数しか体験できなかったのは、手間と時間がかかるからだ。
体験は夢のよう時間だった。外部の視界は12のカメラと5つのセンサーによって取得され、合計2300万以上のピクセルをもつ極小のOLEDディスプレイに表示される。
つまり、外界をカメラと目の前の小さなディスプレイ経由で見ることになる。それなのに非常に高精細で位置のズレがない。まるで、そのまま外を突き通して見ているかのような感覚を与えてくれる。
しかも、それはカメラ映像なので、加工を施すことが可能。Vision Proは、目の前の空間にディスプレイやアイコンが浮かんでいるように表示してくれるのだ。
SFのなかで見てきた、「目の前に浮かぶディスプレイやオブジェクト」。それがついに現実となるのだ。
Vision Proの右上には、Apple Watchでも採用されているようなデジタルクラウン(ダイヤル)が備えられており、これを回すことで、100%の現実空間から、正面を中心に仮想空間の割合を増やすことができるのだ。
つまり、クルマの中で、目の前に大きなディスプレイを何枚も表示して仕事をすることができるというわけだ。
2300万ピクセルのOLEDは目の前に4K以上の解像度のディスプレイを表示することが可能。
Macを視界に入れると、そのMacの外付けディスプレイを仮想空間に出現させることもできる。
また、バーチャルキーボードも用意されるが、現実空間のBluetoothキーボードも接続できるので、テキスト入力などは、普段使っているキーボードを利用できる。
これは車内作業環境として理想的なものだと感じた。クルマのシートに座ったまま、目の前に大きなディスプレイを表示して、仕事をすることができるし、また映画を見ることもできる。もちろん、リアルな3D映像も楽しめる。
本機で撮影した写真や動画は、現実に見るのと同じ立体感をもっているので、風景を撮影したら、まるでそこにいるような体験を記録することもできる。まさに、カーネル読者にピッタリのデバイスだと思う。
現実空間にディスプレイやオブジェクトを描き出す
デジタルクラウンを押すと、ホーム画面になる。画面といっても、ご覧のようにアイコンは浮かんでいるのだが。入力は視線を使う。
iPhoneで撮影したパノラマ写真は、ご覧のように目の前を取り囲むように表示することができる。いまのうちに撮っておこう。
いまのところ、予想価格は約50万円だが……
後頭部を包み込むようなバンドはフィット感に優れ、ダイヤルを回すことでフィット感をよりタイトに調整することができる。
見る映像が立体的なだけではなく、音も「立体」。ビデオ会議をしても、話しかけられた方向から音がする。音楽も映像の音も立体的だ。
電源が確保できる場所なら電源につないで使えばいいと思う。電源を取り外しても、バッテリーで2時間の駆動が可能となっている。
現実空間とのほどよい関係が素敵
これからの仕事は、目の前に好きなサイズのディスプレイを表示して行えばいい。iPhoneやiPadのアプリも別途表示できる。
リアル世界にあるキーボードやマウス、トラックパッドをBluetooth接続できるので、フィジカルなインターフェイスには困らない。
現実世界の人が近づいてきたり、話しかけられたりしたら、その部分だけVR空間が薄れて、現実世界の人を見ることができる。
文、写真:村上タクタ
初出:カーネル2023年9月号vol.62
村上タクタ プロフィール
WEBメディア『ThunderVolt』編集長。デジタル機器、特にiPhoneなどのスマホやタブレット、Macに詳しく、アップルがUSの新製品発表会に招待する数少ない日本人メディアのひとり。『カーネル』編集長の元同僚だったりする。