理想的なアウトドア生活を楽しむために、山や土地を購入する人たちが注目を集めている。
そんななかで、さらに歩を進めて、理想的なキャンプを「楽しんでもらう」ために、自分たちでキャンプ場をつくり運営を行う「キャンパー」たちも増えてきている。
キャンプを楽しむ側から、楽しませる側へ。今回は、そんなキャンプ場運営に挑戦している猛者に話を聞いた。
旅好きな若者が運営するミニマムなキャンプ場
埼玉県は小川町。東京からクルマに乗って1時間半で着く近さと、ゴルフ場やハイキングコースなど、豊富な自然がある場所で知られている。
町内を走る東武東上線の小川町駅から2.5㎞の距離に、今回取材したキャンプ場がある。
「みんなが気軽に集まり、しっぽりと過ごせるキャンプ場を目指しています」。オガワプラムガーデンのオーナー・青沢タカユキさんのお言葉。
静岡県出身で大学時代は京都で過ごし、その後は冒険家として定期的に世界を巡っていた。そのなかで、日本で気軽に人が集まれる場を作りたいと思い、キャンプ場が浮かんだそうだ。
「2019年に、土地を買ってゼロからキャンプ場をつくろうと思い、都心から近い千葉で探しました。が、お金を借りようとしていた金融機関からOKが出なかったんです。お金はもちろん、実績もないからだと。そこで挫折しかけました」。
その後、移住イベントに偶然行ったところ、「キャンプ場をやってみては?」と協力的な地主さんと出会う。
「この地主さんは材木家具屋のオーナーであり、小川町では顔が広い方で、農地転用の手続きから資材の調達まで幅広くサポートしてくれました。周辺の方へのあいさつ回りもスムーズで、この方がいなければ、いまはなかったと言っても過言ではありませんね」。
途中でコロナ禍が起きたものの、運にも恵まれ、2021年1月にグランドオープンを果たす。価格はひとり1泊3000円で、中学生以下は半額、未就学児は無料。サイト数は6サイトだが、将来的には隣の土地まで拡張して10サイトまで広げたいとのこと。
取材の最後に、青沢さんにキャンプ場をオープンして感じたことを聞いてみた。
「お金を用意して買うのではなく、間借りやDIYで運営する方法があるのを学びました。固定概念にとらわれず、行動と人とのつながり、そして信念があればきっと開業できると思います」。
オガワプラムガーデンの魅力
住宅が近いのにとても静か
キャンプ場から橋を渡るとすぐに住宅地があるが、日中も夜もそこまで光と音は気にならないとのこと。
「リピーターの方からは、キャンプ場の中には街灯がなく、音もほぼないので、快眠できたと好評いただいています」。
間隔を広くとったゆったりサイト
駐車場の数が限られているため、施設の広さのわりにはサイト数は6サイトと少ない。
「ファミリーの宿泊はほぼなく、ソロ、デュオなどの少人数での利用者が多いため、ゆったり使えるという点でちょうどいいと思います」。
どのサイトからも炊事場とトイレが近い
トイレは女性専用が1棟、共用が1棟あり、炊事場はひとつのみ。見渡せるほどの敷地のため、トイレ、炊事場ともにどこからでもすぐに利用できる。「フリーサイトなので、皆さん好きな場所で過ごしています」。
青沢タカユキさんに聞いたキャンプ場づくりQ&A
【Q1】土地はどうやって見つけた?
【A】地主さんと知り合い、所有地を使うことになりました。
キャンプ場を始めるには、とにかく土地が必要。青沢さんは、小川町の地主さんと知り合い、しばらく使われていなかったプラム果樹園を活用している。「今でもプラムの実がなるので、実がなったらお客様に配っています」。
管理棟は、使われていない小屋を借り、整えて2022年に完成。外装の塗装や看板は自ら手がけた。橋を渡ってサイトへ行くため、荷物が多い人は隣の台車を使って向かう。
月に2回ほど行う草刈り。草が育つ夏は週に一度は行う。
【Q2】水、電気はどう解決した?
【A】水はジャグで、トイレはバイオトイレを採用しました。
なんと、電気、ガス、水道は利用しないため、ランニングコストはゼロ! 「トイレと炊事場の明かりは、バッテリー式のLED ライトを置いています。充電はソーラーパネルとポータブル電源でまかなっています。ガスは必要なく、水は近くの沢から汲み、朝イチにジャグに入れています」。
友人にも手伝ってもらいDIYした炊事場。サイト数が少ないため、30リットルのジャグで水は十分まかなえる。近くのホームセンターで購入。
管理棟では薪が購入でき、焚き火台のレンタルも行っている。「奥には自分が旅したときの道具を置いています。たまに利用者さんが気づいて質問されます」。
【Q3】一番大変だったことは?
【A】ゼロからトイレを製作することでしたね。
トイレは町内で活動する建築専攻の大学院生が製作。木材は地主さんから提供してもらい、ほかの材料は自分たちで用意した。
「つくり方はWEB サイトに載っているものを参考にしました。デザインは学生さんにお任せ。自分も手伝い、スタートから完成まで1カ月かかりました。バイオトイレは業者が汲み上げる必要がなく、半年に1回、自分たちで汲み上げ、畑の肥料にしています」。
①学生3人と青沢さんと手分けして穴掘り。
②コンクリート塀、骨組みを組んで土台が完成。
③人が通れるように、メジャーで細かくスペースをチェック。
④使った紙はゴミ箱へ、排便後はおがくずを入れる。
⑤完成した共用トイレ。建物の奥は壁をなくし、自然がじかに見られる。
⑥こちらは女性専用のトイレ。
【Q4】ほかのキャンプ場との違いは?
【A】都心から近い、農家さんの食材が買える、です!
「人気のキャンプ場はひと里離れた場所が多いので、準備、移動、気合いが必要で、疲れる人も多いと思います。我々の施設は都心から近いうえ、隣りには自然があるので気軽に利用できるのがいいと思います」と青沢さん。
管理棟から橋を渡ってすぐの場所に、地元の農家さんが定期的に農作物を置いて販売している。新鮮で旬な野菜が並び、おいしいと好評だそうだ。
この日はカボスとサツマイモを販売。1袋100円で、隣の料金箱に入れればOK。「朝イチに並ぶので、朝食で利用してもらいたいです」。
直火サイトは2カ所。丸太のスツールを置き、早い者勝ちで利用できる。
管理棟の右上に飾られた世界地図。「夏季は休業して、毎年海外へ旅をします」。