【概要】キャンピングカーに搭載されている電気や使い方について、超急速充電システム「ハイパーエボリューション」を開発したキャンピングカーメーカー・ナッツRVに話を聞いた。
一般の無改造車と異なり、サブバッテリーが搭載され、車内で電化製品を使用できるのがキャンピングカーの強みだろう。
では、現在のキャンピングカーの電気は、どんなものが搭載されて、どんな使い方ができるのか?
今回は、そんなキャンピングカーの電気事情を、「電気に強いキャンピングカー」の代名詞ともいえる「ハイパーエボリューション」を販売するナッツRVに聞いてみた。
教えてくれたのは……
ナッツRV 2代目電気博士 舛見純也さん
キャンピングカーイベントでは、ナッツブースで「電気の話」をわかりやすく解説してくれる舛見さん。ハイパーエボリューションなどの開発にも携わる同社の電気システム担当で、同社の2代目電気博士を襲名している。
カーネル編集長・大橋:舛見さんがナッツRVの「2代目電気博士」に就任したのは、何年前になりますか?
舛見さん(以下、舛見):1年半前ですね。2021年のジャパンキャンピングカーショーで発表した、超急速充電システム「ハイパーエボリューション」の開発あたりから本格的に担当しています。
大橋:最近は電気に特化したキャンピングカーも増えました。ナッツRVのエボリューションシリーズをはじめ、キャンピングカーとして何がどれだけ使えて、走行充電にかかる時間など、気になるところです。
舛見:皆さんからも、エアコンが何時間使えるのかという質問をされることが多いのです。でもその前に、ふたつの視点を持ってほしいです。搭載されているサブバッテリーで、どんな電化製品が、どれだけの時間使えるのか? そしてそのバッテリーをどれだけの時間で充電することができるか? ということ。
使用できる時間に関しては、純粋にバッテリーの量に依存します。そこはどの製品も一緒です。たくさんのバッテリーを積めば当然、長い時間使えます。非常にシンプルな話です。
大橋:数値的な目安は?
舛見:例えばエアコンをサブバッテリーだけで使おうとするのであれば、鉛バッテリーで最低でも200アンペアは必要です。サブバッテリーを2個分ぐらい。そのくらいないと、鉛バッテリーの場合はまともに使えないと思ったほうがいいです。
大橋:一般的なキャンピングカーであれば、だいたい2個相当ぐらいは載っている?
舛見:エアコン搭載車両であれば、まちがいなく最低でも2個。正直、それでも少ないです。
大橋:エアコンがなければ、1個の場合もあるのですね。FFヒーターは1個で大丈夫?
舛見:1個でも十分使えます。
大橋:それが「キャンピングカーの一般論」だとして、そのうえでナッツの「エボリューション」は、どのくらい強化されているのですか?
舛見:2016年に発表したエボリューションなどは、サブバッテリーを3個搭載しています。300アンペアくらい。それまで、ナッツの標準オプションで載せていたのは、バッテリー2個まででした。
鉛バッテリーをサブでたくさん積んで、数を増やせば、各サブバッテリーの負荷が分散されるというのがメリットです。しかしその反面、全部がある程度均一に消費され、均一に充電されることに……。
鉛バッテリーの特徴として、満充電をキープしておかないと劣化が極端に早くなります。だから、数を増やすと満充電ではない時間が長くなり、劣化が早まってしまうのです。
極端にいえば、バッテリーは横つなぎにすれば、いくらでも増やせます。しかし、そこを3個に納めているのは全体のバランスですね。
大橋:やりすぎるとバッテリー自体の寿命が短くなる可能性があると。
舛見:エボライトの場合は、バッテリーは一緒ですが、充電装置が違います。エボライトとエボリューションは、エアコンが使える時間は一緒です。ただ、使ったものを回復させるのに必要な時間が、エボリューションのほうが早い。そこの差ですね。
大橋:電気の威力は同じだけど、充電性能が異なるわけですね。
舛見:その後、ハイパーレボリューションが登場したのが、2021年のジャパンキャンピングカーショーになります。最大の違いは、リチウムバッテリーを搭載したこと。4個搭載で400アンペアです。
大橋:何が変わったのですか?
舛見:ずばり容量が増えました。さらに、鉛バッテリーは大きい負荷をかけると電圧が下がってしまう。バッテリーとしては使えるが、エアコンやインバーターなどが止まってしまうこともある。リチウムイオンバッテリーは、それが起こらない。だからバッテリーに書いてある容量どおりに使い切れる。
大橋:バッテリー自体の性能がアップしているんですね。
舛見:100アンペアアワーの容量表記の鉛バッテリーの場合、エアコンで使うと、その100アンペアアワーを使いきることはできない。途中で止まっちゃうわけです。
リチウムイオンの場合は、その容量表記どおりの時間が、ほぼ使えます。当然、バッテリーを載せ替えただけではだめなので、リチウムを最大限使うためのシステム、つまり弊社でいうなら「ハイパーエボリューションシステム」を同時に開発しました。
大橋:そのシステムの特徴は?
舛見:とにかく走行充電が速い。400アンペアのバッテリーなら、ゼロから満充電まで4~5時間。エボリューションとの比較でいうと、データ上では1.5倍以上は速いです。
キャンピングカー(エボ以前)として、今まで問題にされていたのは、走行充電なんです。走れども走れども充電されない……。外部充電やソーラー充電であれば、しっかり満充電になるのに、走行充電では満充電にならないところでした。
大橋:それは御社に限らず、ですよね。そこから性能を上げたのが、エボリューションというわけですね。
舛見:はい。そして、さらに上げたのがハイパーエボリューションです。
大橋:なるほど。バッテリーとシステムの両方の進化なんですね。
舛見:バッテリーの性能アップとともに、走行充電の性能も上げた! という感じですね。
大橋:それだけリチウムバッテリーは高性能なんですね。では、なぜ全部の車両をリチウム+ハイパーエボリューションシステムにしないのですか? 設置する場所の問題?
舛見:場所の確保はともかく、もっと単純に「その車両に、そこまでのバッテリーが必要か?」ということ。
大橋:当然、かかるコストも含めて?
舛見:例えば、バンコンで室内エアコンも付いていない、電子レンジも付いていないクルマに、リチウムイオンバッテリーを積む意味って、あまりないと思います。鉛バッテリーでも十分に仕事をしてくれる。
舛見:自分のキャンピングカーに、どんな装備が付いていて、どういう使い方をするかによって変わります。例えば、1泊しかしない場合であれば、ハイパーエボリューションでなくても十分なときもある。1泊分のエアコンを使用するだけなので、鉛バッテリーのエボリューションでもちます。でも2~3日連泊する場合は、バッテリーを大きくしたほうがいい。
大橋:旅のスタイルにもよる?
舛見:細かく観光地をめぐるのであれ_ば、移動時間は短くなる。移動時間が短いなら、短時間でガツンと充電できないと……。じゃあ、ハイパーエボリューションがいい! というように、自分の使い方と選択肢を考えたときに、さまざまな車種があるのは、ユーザーにとってはいいことだと思います。
大橋:いま、ポータブル電源が広がりを見せていますが、キャンピングカーのバッテリーも、ポータブル電源になる可能性はありますか?
舛見:いいえ。そこはあまり考えていません。ポータブル電源との大きな違いは走行充電にあります。
大橋:でも、ポータブル電源でも走行充電ができるモデルがあります。
舛見:走行充電の効率が違います。ポータブル電源ではせいぜい10アンペアですが、ハイパーエボリューションなら最大100アンペアという大きな差があります。その走行充電システムがナッツのウリでもあるので、ポータブル電源になる可能性はないですね。
大橋:もちろん車種や電池によっても変わるとは思いますが、そこは大きなアドバンテージですね。今後、キャンピングカー業界のバッテリーシステムの流れは、この充電システムの性能向上かも、ですね。逆にいえば、御社みたいなシステムがないキャンピングカーは、ポータブル電源に変更される可能性もあるということですか?
舛見:あると思いますが、そこは各社、各モデルのコンセプトによって変わってくると思います。
大橋:なるほど。今回はありがとうございました。
文:大橋保之(カーネル)
出典:カーネル2022年3月号vol.53