婚約中のふたりがはじめたバンライフという暮らし方
2020年、世界中の人々の生活を一変させたパンデミック。サニーとルナもこの影響を大きく受けたふたりで、予定していたウェディングを挙げることができなくなってしまった。それならばと、その費用を新しい生活スタイルであるバンライフに投じてみたという。
サニーが5年前から夢見ていたこの自由なライフスタイル。パンデミックによりリモートワークとなったこともあり、彼はその自由な時間をバンライフにつぎ込むことに。
ワイフとなったルナもプロジェクトに大賛成。彼女の頭のなかにあったインテリアデザインを、一台のバンの中で展開することを楽しもうと決心したのだそうだ。
走行距離4万kmの中古商用バン、ラム・プロマスターを格安で手に入れた彼らは、さっそくバンのカスタムプランを練り始める。
バンライフを楽しむための電気や水まわりなどのインフラシステムはもちろん、ベッドルームやキッチン、シャワールームなどの快適装備や好みのインテリアまで、すべて自分たちでデザインした。
目に見えない壁の内側となるインサートや防振材、配線、配管類など、必要な部材はホーム・デポで買い付け。自分たちの手ですべてカスタマイズし、カリフォルニアを起点に夢見たバンライフをスタートした。
もちろん、彼らは過去にそんな生活を経験したことはない。数多くの情報をもとに、自分たちなりの快適な新しい生活を開始。カリフォルニアから北上した彼らは、オレゴン州とワシントン州を経由し、その後アメリカ大陸を東海岸まで横断する。
各地の文化や大自然を満喫しながら、ユーチューブやインスタグラム、そして自身のウェブサイトを駆使して積極的に情報を発信。同じくバンライフを始めたいと考えている人たちへ、旅をしながら自分たちの得た情報を紹介していった。
リモートワークによるデザイン関係の仕事をこなすサニー。バンライフを通じて得た副収入も合わせて、1年もかからず、このカスタムバンに投資した600万円以上の費用を完済することに成功。
まさに自由な時間と移動手段を手に入れた彼らは、新しいマネタイズの方法も入手し、自分たちのエクスプローラー・トリップを続けている。
欧米には彼らのようにさまざまな情報を発信しながら生計を立てている人が数多くいる。なかでも、このヤングカップルは丁寧な情報発信により、多くのフォロワーを得ることに成功。自分たちが夢見たバンライフを日々楽しんでいるのだ。
毎日が楽しく過ごせることもデザインには必要な要素
内装がまったく取り付けられていないカーゴルームといっても、一台のバンの中に生活に必要となるすべての機能と空間を作り出すのには、独創的なアイデアや特殊なノウハウが必要。
サニー&ルナはそうした経験はなかったものの、ふたりが移動しながら快適な生活をできる空間を自分たちの手で作り上げた。
ベース車はアメリカで広く商用のデリバリーバンとして使われているラム・プロマスター。車名にプロがつくほどだから、配達用のバンに徹している部分もある。
しかし、シンプルな構造は内装カスタマイズをしやすいというメリットもある。ゆえに配達用として使う場合、サードパーティから、荷物を固定する道具や、仕分け用の壁やシェルフなどが、後付けのパーツとして豊富に販売されているほど。
クルマの中で快適に過ごすためには、家のインテリアと同じように、さまざまな部屋(空間)が必要となる。リビングルーム、キッチン、ベッドルーム、シャワー、トイレ、ストレージ……。
これらの機能を、本当に限られた約4×2mのスペースに詰め込まなくてはならないのだから、数多くの工夫やアイデアが重要となる。
彼らのバンは、そういった機能を満たしているだけではなく、白を基調としたボヘミアンスタイルで仕上げられているのがポイント。すてきな空間を実現している。
クルマの機能とは別に、車内空間で生活するために行わなければいけないインフラ整備。さまざまな機器を動かすためには、豊富な容量の電力も必要になる。
そこで、走行中に充電を行うために、メインバッテリーとは別に大型リチウムイオンバッテリーを3個搭載。ACインバーターを併用することにより3000Wまでの出力を確保しているため、ヘアドライヤーなども使用可能だ。
さらに、可能な限りエコロジカルで余力をもてるシステムを目指して作られている同車。エンジンでの発電に頼らないように、ルーフの半分を占めているのがソーラーパネルだ。
また、調理やシャワーのためには大量の水も必要となるため、120ℓ以上の貯水ができるウオータータンクと、温水機能も備えたシステムも完備されている。
室内の照明は、節電タイプのLEDバルブを中心にダウンライトなどの照明が、調光機能付きで取り付けられる。
これらの電気の配線や水まわりの配管を済ませたあとに、断熱材をしっかりと壁に仕込んで仕上げられた内装。木製の壁と合わせるように、キッチンまわりやストレージ類のキャビネットも、すべてがパーフェクトなサイズとなるように、オリジナルサイズでデザインされた。
キッチンの収納スペースの作り込みも秀逸で、必要な道具が必要な場所にしっかりと収められる仕組み。走行中に倒れたり、片寄ってしまったりしないように、仕切りやサポートなどの工夫が見てとれる。
クルマの完成後、夢にまで見たバンライフをスタートさせたサニー&ルナ。今後もさまざまな場所に遠征しながら、それぞれの場所のカルチャーとバンライフの楽しさを、多くの人に伝え続けてくれることだろう。
出典:カーネル 2022 冬号 vol.52