旅する文筆家・堀田貴之による連載。ニュージーランドをひとりさまよい歩くことにした、旅の記憶は第二話へ。オアマルという海辺の町で、ペンギンの帰りを待つ。

第二話 「ペンギン・ハイウェイ」を南下して、オアマルへ

画像: そびえたつ尖塔は、40m近くある、という「セントルークス・アングリキャン教会」。1865年に建設がはじまり、1922年に現在の姿になったという。

そびえたつ尖塔は、40m近くある、という「セントルークス・アングリキャン教会」。1865年に建設がはじまり、1922年に現在の姿になったという。

クライストチャーチでひと晩を過ごし、翌朝、国道1号線を南下して、オアマルという海辺の町を目指した。
南へ向かう国道1号と、その先に続く海岸線の道路を、僕は「ペンギン・ハイウェイ」と呼ぶことにした。

途中、ティマルという小さな町で、昼ごはん。雰囲気のいいカフェやレストランが並んでいるストリートがあったけど、僕は、町外れの地元の人しか寄らないだろう、薄汚れたカフェへ。

壁にかけられたメニューの黒板を見ても、読めない。達筆(?)の筆記体なので、なんて書いてあるか、ほとんど分からないのだ。分かっても、知らない料理が多いだろうけど。
とりあえず、いかにも常連という感じのおっさんが食べているものを見て、「同じものを」と注文して、カウンターの席へ座った。おっさんから、ひとつ席を空けて。

画像: 1867年に建てられた初代郵便局は、「The Last Post」という名のレストランに。そこで、ビールとともに「チリ・チキン・サラダ」を頬張る。

1867年に建てられた初代郵便局は、「The Last Post」という名のレストランに。そこで、ビールとともに「チリ・チキン・サラダ」を頬張る。

「これ、うまいんだぞ」と、野球帽をかぶったままのおっさんは、自分の皿を指差す。「リッチー(たぶん、店主の名前)のこれを食わなきゃ、ここに来た意味がない」みたないことを言いながら、皺深く笑う。映画「ワイルドバンチ」のウォーレン・オーツのように。

このサンドウィッチが、大正解。
ローストビーフがたっぷり詰まっている。ソースは、甘味と酸味が同居。野菜の量も多からず少なからず。ライ麦パンは、軽くトーストされている。コーヒーは、ふつうだったけど……。

画像: 「ザ・ペンギン・クラブ」という、へんてこなライブハウスがあった。が、扉は固く閉まっていた。裏口で「合い言葉」を言えば入れてもらえる、あやしいお店だったのかもな。

「ザ・ペンギン・クラブ」という、へんてこなライブハウスがあった。が、扉は固く閉まっていた。裏口で「合い言葉」を言えば入れてもらえる、あやしいお店だったのかもな。

いまの時代、はじめて訪れる場所でも、おいしいものを食べたいと思ったなら、すぐに検索で探し出すことができる。ニュージーランドの小さな町でも、それは同じだ。

この国に着くなり、わがiPhoneのSIMカードを入れ替えたので、たいていのところで使える。
「でもな」と、“オールド・スクール(old skool)”の僕は思うのだ。

できる限り、直感で生きてみよう、と。とくに、旅へ出ているときは。

画像: オアマルの町は、いたるところに19世紀の建物が。ビクトリア時代がどんなのかは知らないけど、見上げるほどに敬服せざるを得ない存在感で、わが心臓をかすめるのだった。

オアマルの町は、いたるところに19世紀の建物が。ビクトリア時代がどんなのかは知らないけど、見上げるほどに敬服せざるを得ない存在感で、わが心臓をかすめるのだった。

オアマルの町は、古い建造物が並んでいた。
まるで、19世紀のビクトリア時代のように(とはいえ、19世紀に生きていたわけではないし、そもそもイギリスへも行ったことはないけど)。

なんでも、ここは良質の石灰岩(オアマル・ストーンと呼ばれている)が産出されるらしく、19世期の建築物がいたるところに残っている。

画像: 泊った宿は、「エンパイア・バックパッカーズ」。由緒あるホテルを改装した安宿。これも、建物を見て、直感で決めた。リビングには、でっかい暖炉が。夏だったので、火は入ってなかったけど。

泊った宿は、「エンパイア・バックパッカーズ」。由緒あるホテルを改装した安宿。これも、建物を見て、直感で決めた。リビングには、でっかい暖炉が。夏だったので、火は入ってなかったけど。

そんな建物を、眺めたり、その石の壁に触れたりすると、「本気で建てるなら、200年たっても300年たってもまだまだ現役で暮らせる建物が、当たり前やろ」という思いが、伝わってくる。石灰岩の頑固、職人の気迫、そして国民のアイデンティティ、が強く感じられる建築物たちだ。

オアマルへ来るまで、この町のことは知らなかった。ここへ来たのは、この町の外れにペンギンのコロニーがある、と聞いたからだ。

画像: ペンギンの海へやってきた。

ペンギンの海へやってきた。

道路には、「ペンギン横断注意!」の標識がある。夜になると、ペンギンがぞろぞろと帰ってくる浜がある、という。

ペンギンが帰ってくるまで、海辺に建つクラフトビールのブルワリーで、待つことにしよう。

写真・文/堀田貴之

※当記事は2020年1月に取材したものです

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