第二話 「ペンギン・ハイウェイ」を南下して、オアマルへ
クライストチャーチでひと晩を過ごし、翌朝、国道1号線を南下して、オアマルという海辺の町を目指した。
南へ向かう国道1号と、その先に続く海岸線の道路を、僕は「ペンギン・ハイウェイ」と呼ぶことにした。
途中、ティマルという小さな町で、昼ごはん。雰囲気のいいカフェやレストランが並んでいるストリートがあったけど、僕は、町外れの地元の人しか寄らないだろう、薄汚れたカフェへ。
壁にかけられたメニューの黒板を見ても、読めない。達筆(?)の筆記体なので、なんて書いてあるか、ほとんど分からないのだ。分かっても、知らない料理が多いだろうけど。
とりあえず、いかにも常連という感じのおっさんが食べているものを見て、「同じものを」と注文して、カウンターの席へ座った。おっさんから、ひとつ席を空けて。
「これ、うまいんだぞ」と、野球帽をかぶったままのおっさんは、自分の皿を指差す。「リッチー(たぶん、店主の名前)のこれを食わなきゃ、ここに来た意味がない」みたないことを言いながら、皺深く笑う。映画「ワイルドバンチ」のウォーレン・オーツのように。
このサンドウィッチが、大正解。
ローストビーフがたっぷり詰まっている。ソースは、甘味と酸味が同居。野菜の量も多からず少なからず。ライ麦パンは、軽くトーストされている。コーヒーは、ふつうだったけど……。
いまの時代、はじめて訪れる場所でも、おいしいものを食べたいと思ったなら、すぐに検索で探し出すことができる。ニュージーランドの小さな町でも、それは同じだ。
この国に着くなり、わがiPhoneのSIMカードを入れ替えたので、たいていのところで使える。
「でもな」と、“オールド・スクール(old skool)”の僕は思うのだ。
できる限り、直感で生きてみよう、と。とくに、旅へ出ているときは。
オアマルの町は、古い建造物が並んでいた。
まるで、19世紀のビクトリア時代のように(とはいえ、19世紀に生きていたわけではないし、そもそもイギリスへも行ったことはないけど)。
なんでも、ここは良質の石灰岩(オアマル・ストーンと呼ばれている)が産出されるらしく、19世期の建築物がいたるところに残っている。
そんな建物を、眺めたり、その石の壁に触れたりすると、「本気で建てるなら、200年たっても300年たってもまだまだ現役で暮らせる建物が、当たり前やろ」という思いが、伝わってくる。石灰岩の頑固、職人の気迫、そして国民のアイデンティティ、が強く感じられる建築物たちだ。
オアマルへ来るまで、この町のことは知らなかった。ここへ来たのは、この町の外れにペンギンのコロニーがある、と聞いたからだ。
道路には、「ペンギン横断注意!」の標識がある。夜になると、ペンギンがぞろぞろと帰ってくる浜がある、という。
ペンギンが帰ってくるまで、海辺に建つクラフトビールのブルワリーで、待つことにしよう。
写真・文/堀田貴之
※当記事は2020年1月に取材したものです