【概要】メルセデスベンツ・スプリンターバンの魅力やアメリカ・ウエストミンスターにあるカスタムメーカー・バンスピードが手がけるスプリンターバンのバンライフ車両の紹介など。

アメリカで“バンライフ”という言葉が誕生して久しいが、ミニマリスト世代が台頭してきた現在において、アウトドアビークルの中心は、これみよがしの大きなRVから質実剛健なフルサイズバンのカスタム車両に移行してきた。

今回は、なかでも最も高い人気を誇るメルセデス・ベンツのスプリンターバンをベースにしたモデルを紹介したい。

スプリンターバンが提案するバンライフの理想のカタチ

4WDトランスミッションが用意された優れた基本パッケージで、走行環境を選ばないスプリンターバン。思う存分アウトドアライフを満喫できる、心強いパートナーだ。

元来はアウトドアで過ごすことを望むアメリカの人たち。20世紀初頭に自動車が誕生してほどなく、RVの原型となるクルマが誕生していることからも、彼らの生活が常にアウトドアに向いてきたことが伺いしれる。

それから100年以上、クルマはさまざまなカタチで発展し、そしてアウトドア用ビークルも進化を遂げてきた。

そのひとつが快適な車中泊を可能にしてくれるRVやトレーラーであった。

現在(2022年3月時点)のアメリカでは、フルサイズバンの内装をカスタムした、いわゆる「バンライフ・スタイル」の車両が主流。

そんななかでも、ベース車両のポテンシャルから、いま最も高い人気を誇っているのが、メルセデス・ベンツのスプリンターバンだ。

バンライフを楽しむことに適したベース車両は、アメリカ製であれば、フォードやGM、ラムなどからもリリースされているが、それでも圧倒的な人気を誇っているスプリンターバン。

大きく上まで開く後部の観音ドアにより、後方からのエントリーも楽々。滞在先のシチュエーションに合わせてマルチユースが可能。

理由はやはり、メルセデスの徹底的な設計思想による、しっかりとしたクルマ作り。まずはこれに尽きるといってもいいだろう。

スプリンターバンは、基本的に商用のコマーシャルバンとして生み出されたクルマだ。

トルクフルなディーゼルエンジンの特徴を生かし、好きなときに好きな場所に移動できる。燃費のよさも人気の秘密だ。

しかし、そのシャシー剛性や商用車であっても快適かつ堅牢なサスペンション回りの作り込み、さらにトルクフルなディーゼルエンジンが生み出す走行フィーリングなど、世界最高水準を目指してきたメーカーが手掛けたモデルとして、他メーカーと比較しても一日の長がある。

オートクルーズなどの便利な装備に加え、さまざまな安全機構も備えるスプリンターバン。

さらに、扱いやすいエンジンの燃費のよさも、バンライフを楽しむ人たちにとっては、非常に大きなファクターといえる。

加えて4WDモデルをチョイスできることも大きな理由だろう。季節を問わずアウトドア・アドベンチャーに出かけたいアメリカ人にとって、4WDトランスミッションが生み出す悪路走破性は大きな魅力。

4WDモデルを選んでおけば、ダートロードはもちろん、ビーチなどの砂浜でも走行できる場所に乗り入れることもできる。カリフォルニアではクルマでアクセス可能なビーチもあるので、こうした楽しみ方も満喫したい。

4WDモデルであれば、少し大径のオフロードタイヤに交換するだけで、クルマで行ける活動範囲が何倍にも大きく広がるからだ。

また、スプリンターバンがアメリカに導入されてから20年程度だが、バンライフのベース車両としての人気に火がつく前から、多くの趣味を楽しむ人たちから愛用されていた歴史をもつ。

高い室内高を生かして、自在にレイアウトできるインテリア。まるで自宅のリビングルームをデザインするかのごとく楽しむことができる。シックなトーンの内装がすてきだ。

その人気の秘密は室内高の高さ。背の高い欧米人でも車内を立ったまま移動できるのは大きな魅力で、2000年当初から、レーシングサーキットなどで、仮設ピットとして使われるスプリンターバンを見かけることも多くあった。

室内で立って調理をしても、まだまだ天井までは余裕がある。

こうして多くの信頼を得てきたスプリンターバンは、バンライフのベース車両として、時を重ねれば重ねるほど熟成が進んできている。

車幅自体はそれほど広くないので、後部ボディの左右にはカプセルと呼ばれるエクステンデットパーツを取り付け、室内をワイド化している。

現在では、クルマの内外装の進化に合わせ、アフターマーケット各社から専用カスタムパーツが大量に開発リリースされている。

そのため、さまざまにカスタム可能なバンライフ仕様のベース車として、一番人気のポジションに君臨しているのだ。

スライド式のサイドドアの開口部はとても広く、開放感あふれる設計だ。外部から車内へのアプローチもスムーズに行える。

南カリフォルニアに数あるバンコンバージョンメーカーのなかでも、高い人気を誇るバンスピードショップが提案する、メルセデスベンツ・スプリンターバンのコンプリートモデルを紹介することにしよう。

品の良さとクールさを融合したVAN SPEEDのコンプリートモデル

VAN SPEEDでは数多くのカスタムパーツを独自デザインで製造・販売。

アメリカのなかでも年中温暖な気候で、豊かなアウトドア環境に恵まれる南カリフォルニア。まさしく数え切れないほどのカスタムバンコンバージョン・メーカーが存在する。

フロントバンパーはクルマの表情を変えるのに効果的なパーツ。がっちりとしたフレームに、フォグランプをビルトインできる構造もGood。

そこで今回は、ウエストミンスターにあるバンスピードショップを訪ね、彼らが提供するスプリンターバンをベースとしたコンプリートモデルをチェックしてみた。

バンスピードショップのコンセプトは、バンライフを楽しむ人がどんな場所でも快適に過ごすことができること。それをベースにすべてのモデルやカスタムパーツが開発されている。

スムーズにサンディングされた木材を採用してデザインされたインテリアは、とても洗練された上質な空間。

スプリンターバンの全長に合わせて、2種類のカスタムモデルがメインで用意されているが、豊富なカスタムパーツやフロアプランを組み合わせることで、ユーザーの欲しい仕様に仕立てあげてくれる。

品のよい削り出しウッドを使った内装材は心地よい空間を創出し、さらにマットブラックを中心とした、ファニチャー類がクールな雰囲気を作り出す。

レイアウトも数多く用意され、移動する人数や使用目的に合わせカスタマイズを施すことができるオーダーメイドシステム。

このブランディングされた室内イメージの仕上がりこそが、バンスピードの特徴だ。

スプリンターバンの大きな特徴である室内高を生かし、リビングダイニングエリアと、ベッドエリアはそれぞれゆとりを感じるスペースが確保されている。

大きなテールゲートを左右に開くとたっぷり確保されたストレージとベッド空間につながる。ストレージドアの中には、外部シャワーを使うための装備や、長尺物を収納できる空間などが用意。

その最大の秘密は、カプセルと呼ばれるFRP製のエクステンデットボディが、ボディの後部左右に取り付けられていること。このため、ノーマルより後部スペースがワイド化されている。

スプリンターバン専用に作られたこのカプセルは、ボディ外板をくりぬいたあとに装着するタイプ。

キッチンは左右逆方向にレイアウトすることもできる。

電動工具などがあれば、ユーザーが自分で取り付けできてしまうほど、完壁にフィットする形状に仕上げられている。

カプセル上にはスライディングウインドーなども取り付け可能で、車内の後部リビングスペースに大きな開放感を与えている。

キッチン上部には電源管理システムが備えられ、バンライフに欠かせない安定した電力供給を確保。ルーフセンターには電動ファンが取り付けられ、フレッシュなエアを取り込んだり、換気も簡単にできる。エクストラロング仕様となれば、シャワールームを設置することも容易。

この室内ワイド化によって、後部に設置されたベッドで横方向に就寝できるという大きなメリットも見逃せない。

数々のアウトドア経験がもたらす設計は、クールな内外装だけでなく、実際にユーザーが快適に過ごせる装備をたっぷりと備えている。

豊富な収容能力をもつキッチン回り。引き出しは4段備え付けられ、センターにはビルトイン式冷蔵庫。右のストレージにはグレーウオーターと呼ばれる排水を貯めるタンクを設置。

スプリンターバンに特化することにより、専用のウォータータンクが用意されていたり、架装パーツも複数のバリエーションをラインアップ。専門カスタムビルダーだからこその数々の装備を誇る。 

もちろん道を選ばず行きたい場所に移動する目的を達成するために、足回りの強化にも抜かりはない。

車体後部にはさまざまなオプションが取り付け可能。写真はガソリンなどを入れられる携行缶のホルダー。

4WD仕様をベースに、増大した車重をしっかりと支えてくれるサスペンションも、モデルごとにチョイス可能。

足回りもカスタムされているので、乗り心地と安定性の双方が高いレベルで実現されている。

高い安心感を感じるドライバビリティ、そして安全性の高さにも注目したいスプリンターバン。さらにそこに、クールな快適装備が詰め込まれているのが、バンスピードショップの提案するコンバージョンバンだ。

キャンプファイアー用の薪などを入れておけるヘビーデューティーな金属ケースが架装される。

今後、新しいカスタムバンの登場も控えており、さらにユーザーのDIYカスタムを支援するようなカスタムパーツを大量リリースする計画もあるとのこと。その展開からはしばらく目が離せなさそうだ。

写真、文:Yusuke Makino
協力:VANSPEED Shop
初出:カーネル2022年5月号vol.54