【概要】フォルクスワーゲン・タイプ2 カラベルで車中泊を楽しむ橋口浩一さんの愛車を紹介。福井名産の杉の廃材を活用した内装DIYのこだわりや車両の改装作業など。

木の匠がつくりあげた秀美なカスタムカー

今回、「車中泊の達人」として紹介するのは、福井を拠点に店舗・オフィスの内装を手掛ける会社の代表を務める橋口浩一さんだ。

シーズンになれば毎週末出かける渓流釣りのために、車中泊カーを製作。どうせつくるなら会社の顔になるようなクルマをと、福井県産の杉材を生かし、創業70年の木工へのこだわりと、その職人の技をふんだんにちりばめて仕上げられている。

ポイントはふたつ。マイナスをプラスに変える内装仕上げと、名産材の活用だ。

たとえば、このクルマの天井に走るエアコンダクトを隠しながら、さらにデザイン性を高めるため杉材をルーバー状に施工(角材を並行に敷き詰めたもの)。

LEDを使って間接照明のような効果を引き出したところ。さらに後部にあるエンジン。床部分がどうしても高くなってしまう構造を、そこに畳を敷くことで、足を伸ばして寛げるような空間に仕上げている。

また、節があって資材としては使えない地元名産の杉材を、今回はメインテーブルなどに使用。堂々とした存在感のある一枚板の杉材を生かす、この廃材の活用法は、名産材の付加価値を高めている。 

そしてクルマ選び。VANをこよなく愛し、ビンテージやハンドメイドに惹かれる橋口さんのお目当ては、いまだ熱い人気を誇るVWタイプ2。なかでも実用に耐えうるものをと考え、このクルマを探したという。

ビンテージものは好きだけれど故障しては意味がない。釣りに出かけるための実用的なクルマでありながらも、自分らしさを醸しだせるモデルを狙ったわけだ。そしてできあがったクルマは、まさに一線を画すモデルとなった。

木の匠、橋口浩一さん

福井県にある店舗、オフィスの内装会社・株式会社 古崎の代表取締役を務める橋口さん。趣味の渓流釣りのため、主に福井の竹田川や九頭竜川上流などで、車中泊を行っているとのこと。紳士的な佇まいがカラベルに似合う!

愛車はフォルクスワーゲン/タイプ2 カラベル

1989年式バンタイプの第3世代(T3)を2017年12月に購入。エンジンは水冷だが駆動方式はT2同様RR。そのため荷室後方が狭いが、それ以外の床は非常に低く荷物の出し入れがしやすい特徴があった。

このクルマは、ヤナセから輸入販売され、乗用車仕様「カラベル」と呼ばれたものだ。走行距離は70,000km強で、程度のいいクルマではあったが、前のオーナーが海沿いに暮らしていたこともあり、細部に錆があり、生地も劣化するなど補修が必要な状態だったという。

丸いフォルムで人気を博していたT2から、角型ボディに変わったT3。橋口さんは実用的かつ、ボディと丸目の顔がお気に入りだったT3で程度のいいものを探した。

スライドドアの開閉に合わせて乗降用サイドステップが飛び出してくる。もちろん機械式。

全長4,600mmに対して1,060mmとかなり広いスライドドア開口部。荷物の出し入れにとても便利。

駆動方式はRR(後部エンジン、後輪駆動)のため荷室後ろ側が高く上がる。

インパネ、ドアノブとラチェット、シートまわりはシンプルながらもガジェット感が高い! 

ホワイトリボンのタイヤを探すのには苦労したとか。三角窓はいまのクルマにも欲しい!

福井県産の杉を生かした内装

車中泊用のクルマを手がけたきっかけは、福井で営む店舗・オフィスの内装業で培った技術を、本業以外にも生かすことができないか?と考えた結果だという。

最大のこだわりは、天井部分の格子部分とメインテーブル。どちらも福井県産の杉材を使ったものだ。

こだわりの天井格子。センター部分は別素材の楢材を使って質感を高めている。内装を営むプロならではの工夫。

天井の格子部分は、エアコンダクトを目立たせないように覆った梁が単独では寂しいので、天井全体の質感を高めるために工夫された手の込んだもの。

LEDによる照明が格子からもれ、ダウンライトと組み合わさって寛ぎの空間を生み出している。

福井名産材の杉のなかで資材には向かない抜け節の杉の活用法として、当初からメインテーブルにと考えていた。

メインテーブルは、木材としては使いようのない抜け節の杉の一枚板を利用したもので、その存在感は極まりのひと言。

事務室車登録の8ナンバー。キャンピングカーのような設備は不要。シート部分だけでも大人3人余裕の空間。

きれいに準備された収納スペース

運転席(右ハンドル)側の後部シート下には、ふたつに区切られた収納スペースが用意されている。奥行もあるので小さなスーツケースなども収納可能。2泊3日くらいなら十分、対応できる。

サイドドアから入って左にあるダッシュボード。3段構造で、インバーターを収めても、さらに容量に余裕あり。オーダー家具のような設えで、木の質感が素晴らしい。

ベッド展開はいたってシンプルだが……

ベッドはポプラ材の板を6枚、サイドレールに沿わせながらメインテーブルに敷き詰める構造。板の形状や組み合わせの接合部分など、細部にわたって木工職人の技が光っている。

板は単に置くだけではなく、板同士の接合部分が凹凸で組み合うように工夫されている。そのため寝ている最中にずれることがない。

板をはめ込むサイドレールは車体のカーブに合わせて作られているため、板の側面もそのカーブに沿って製作されている。

ベッドの板は前座席後方の空間、ダッシュボードとの間にきれいに収まるように工夫がなされている。

外部展開のテーブルにもこだわり

天気がよければ、外で食事をしたり、釣り道具をいじったり。そのために製作したテーブルとチェアのセットもお気に入り。一度設置すれば倒れないその構造の秘密とは……。

外テーブルの収納はメインテーブルに重ねてゴムでくくりつけるだけ、といたってシンプル。ゆえに展開も簡単。

テーブルをきちんと固定するために、車体の凹凸に合わせた加工を施し、2カ所のダボで接ぐようになっている。

チェアの収納はダッシュボード脇に2脚ともくくりつける。ダッシュボードの幅から出ないように計算されている。

必要最低限ながら充実の電気系統

運転席と助手席の間のコンソールにはサブバッテリーが装着されている。確認しやすく取り出ししやすいレイアウトは便利。カップホルダーも手作り。

運転席と後方の間に置かれたダッシュボードには1,500wのインバーターを設置。スマホやパソコンの充電には、十分たる容量。

ヒーター吹き出し口はシート下に設置。配管関係は後部エンジンルーム側に隠され、きれいに収まっている。

趣味の道具もハンドメイド!

愛用する釣り道具の一部。ルアーを含めて、そのほとんどが友人による手作り。リールはオールドABUのスピニングリールがお気に入り。渓流で使用し、楽しんでいる。

30年以上続く趣味の釣り。釣りのためにこのクルマをつくったといっても過言ではないほど。シーズン中は、地元の竹田川や九頭竜川の上流に出かけ、イワナやヤマメを追い求めている。

その道具は長年の釣り友達からプレゼントされたハンドメイドによるルアーやルアーボックス、ネット、レザーケースなど、思い出が数多く詰まった品々ばかりだ。

メインテーブルの脚にはロッドが2本、それぞれが干渉しないように収納できるスペースが用意されている。

キャンプ道具も、バースデーイヤーランタンをはじめ古いものを大事に使う。キャンプ用テーブルは自作のワンオフもの。