【概要】焚き火台を中心としたアウトドアブランド「笑's」高久笑一代表のインタビュー。ブランドを立ち上げた理由や製品開発のこだわりなど。昭和プレス戸田工場の潜入レポートも。

焚き火好きを公言するキャンパーは数多くいるが、40年以上焚き火を愛し、20年近くもの長きにわたりコツコツと焚き火台開発を続けている昭和プレス・高久笑一社長ほど焚き火台への深い愛をもつ人物はいない。

笑's(ショウズ)とは

板金工場「昭和プレス」のアウトドアブランド。リーマンショックのあおりで倒産寸前だった2008年、二代目社長・高久笑一さんが遊びで作り、キャンプ仲間に評判だった自作焚き火台の販売を始めたのが笑'sの始まりだ。

のびのび焚き火をしていた中学時代が「焚火魂」の原点

焚き火と野営に飽きたことはありません。

「小学生の時、山好きの父に連れられていった奥多摩でバンガロー脇の石積みの炉で料理をしたのが、最初の焚き火体験。自分から焚き火をしにいったのは中学時代。自転車に乗って友だち4人と50kmほど離れた川原に行ってね。当時は川原で焚き火をしても注意されることはなくのびのび遊んでいました」

「やっぱ、焚き火っしょ」というブログで焚き火台開発の日々を綴る笑's・高久社長、笑さんの焚き火愛の原点だ。

90年代半ばまで焚き火台はなくて、焚き火といえば直火。スノーピークが焚き火台を発表して以降、少しずつ焚き火台が広まっていった。

「直火跡を見つけて焚き火をしていましたが、草地が焦げているし、焚き火台を使えば後片付けしやすいと思って自分のために焚き火台を作ったんです」

家業は板金工場。端材で自分が使いたい道具を作ってはキャンプ地に赴いていたという。この経験があるからだろう、笑'sの焚き火台はローインパクトと携行性が第一。その上でだれもがちょうどいい火を楽しめるように燃焼効率にもこだわっている。

「煙突効果を得られると、だれもが簡単に火がつくしハイパワー。だから折りたたみ式の箱形にしています」

まさかソロがこれほど注目される時代がくるとは

60年記念モデルの「Mr.A-4 All Titanium」。燃焼テストはもちろん、切り込み部分で指をケガしないことも考慮したとか。

「昭和プレスは創業60年を迎え、今年は記念モデルを発売中です。笑'sを始めた時は、自分が使いたいものをということでコンパクトなソロ用焚き火台や薪ストーブを作っていました。ソロキャンプなんて非常にニッチな市場だったんですが、まさか今、こんなにソロが注目されて大手メーカーが参入するとは」

笑'sの製品は高いといわれることがあるそうだが、10年以上使い続けているユーザーは珍しくない。 

「生産数が違うので大手とは値段で勝負できません。その代わりローインパクトで高燃焼な焚き火台にこだわり、溶接や蝶番を使わず歪んでもバラバラにならず長く使えるようにしています。買い替えが進まないので商売下手なんですがね」

もちろん流行のスタイルを研究しているが、決して流行に流されているわけではない。あくまでマイペースだ。

「軽くて携行性がいいからといって必ずしもチタンの焚き火台や薪ストーブが売れるというわけではないし、ホント、商売って難しいですね」

「二次燃焼ができる焚き火台が注目されているけれど、うちで納得できる製品を作るには重くなるし、ひと手間加えることで価格も高くなる。手に取りにくいかと思って開発を中断しています」とユーザー目線は不滅だ。

20年以上焚き火台開発を続けている笑さんだが、途中で飽きたことはないのだろうか。

「夏休みもずーっと野営地にこもっていましたが、焚き火に飽きたことはありません。不思議ですね」

焚き火台一筋、焚き火台愛にあふれた笑さんは今後もブレずに硬派な製品を生み続けるにちがいない。

笑's 焚き火台開発のこだわり

時間があれば毎週のようにテストフィールドに出発

燃焼テストの場は、自身の野営地。この夏もここにこもっていたという。人影のない土地だが別荘地の一角のため管理が行き届いているし、夏以外は人がほとんどおらず、じっくり焚き火台に取り組めるという。

焚き火台製作のこだわりは「燃焼効率」と「コンパクト収納」

自分史上最高傑作は「ちび火君!」。売り上げ的には「B-6君」が圧勝だけどね。

「一番の自信作はちび火君。煙突効果でよく燃えるし12インチのダッチオーブンを載せてもビクともしない。ハイパワーなのに底が二重で熱が伝わりにくい。たたむとコンパクトで重量も1.3kgと軽いんです。最高の焚き火台なのにB-6君ほど売れない。不思議です」

笑'sといえば前開きの扉留め金がないのにピタッと止まる

笑さんの頭の中には数多くの構造が詰まっており、綿密な設計図で一発で決めるというよりは試作を重ねてよりよいモノを探る方式。特許である留め金もないのにピタッと止まる前開き扉も試作を重ねて得た機構だ。

ソロキャンプに幅はいらないそう気づいて横に伸ばした通称「サンマ君」

B-6君のオプションが2つ載る!

ヒット作はバイク乗りからの支持が高い「B-6君」。これを2台横並びにしたのが「B-VI-DUO」。「B-6君」とは違って長い薪が入るし、サンマを切らずに焼けるのだ。それにB-6オプションを2つ置けるので、燗グリルとグリルプレートをセットすれば充実の“ バー”となる。

試作の山から製品化されるのはごくわずか! 昭和プレス戸田工場潜入!

旧工場の3倍くらいに拡張

2020年夏に移転した工場は、旧工場の約3倍の広さとなり上階には倉庫も備えている。それだけ広くても、試作品の扱いには困るとか。

150×300cmのパンチ&レーザー加工ができる大型複合マシンを導入。

ただサイズを合わせるだけじゃないズレない、安全性も確保

鉄板ひとつとっても、スタッキングできるサイズにするだけではダメ。載せたときにズレ落ちないよういろいろな工夫を試して、最適解を導き出している。「試作の山、こんなに増やして」と叱られるそうだが、これは譲れない。

最新マシンと手作業で信頼の高い焚き火台に

移転を機に大型の最新複合マシンを導入。迫力満点だ。組み立てと検品は1台ずつ手仕事で。最新技術と手作業から緻密な製品が生まれる。

炎が見える薪ストーブを生んだのは「笑's」

笑'sらしいスタイルはやっぱりコレっしょ!

日本でサイドビューガラス入りの折りたたみ式薪ストーブを作ったのは笑'sが最初。「燃焼中に水をかけるなど繰り返し実験をして、何種類かのガラスから割れないものを探し出しました」

燃えすぎ、燃えなさすぎであきらめたアイデアも

歴代サンプルと試作途中のお宝がズラリ。

製品、サンプル、開発途中の製品が並ぶ棚。「二次燃焼型も考えたけどきれいな炎にならない。反対に燃えすぎて危険だと断念したものも。そんな感じで放り出しているものがいっぱいあります。どうするんだ、これ」