児島湾(岡山県)に浮かぶ謎の小屋「四つ手小屋」の魅力に迫る! 岡山市の沿岸に浮かぶ、巨大な網を備えた小屋群。かつては漁業用だったが、現在は夜通し漁を行い、その場で捕れたての瀬戸内の幸を味わえる、岡山市ならではの知る人ぞ知る魅惑のレジャースポットになっていた。
海の幸に舌鼓を打つ、岡山市独自の小屋文化
岡山駅からクルマで約30分。瀬戸内海の児島湾に出ると、見慣れない光景が現れる。堤防沿いに海に張り出すようにして、小屋が多数建ち並んでいるのだ。日本では海の上につくられた建物を見ること自体珍しいが、小屋からは大きな網が跳ね出して伸び、不思議さの度合いを強めている。
これは「四つ手網」と呼ばれる、伝統的に行われている漁の形式から生まれた小屋である。四つ手網とは1辺が5〜6mの正方形の網の四隅に、竹などを対角線上に渡して張った引き網のこと。
この四つ手網を水中に吊り下げておき、引き上げて魚を捕る漁法のことも「四つ手網」といい、数十年前に小屋を付随させた「四つ手小屋」が登場したという。もとは漁師たちが漁をするための小屋だったものが、いまでは1棟ごとに1泊単位、10,000円前後で貸し出されている。
現在の四つ手網は、ワイヤーで吊るされ、ウインチで操作する。リモコンで「上」のボタンを押すと、次第に四つ手網が引き上げられる。網に何か載っていれば、長い柄の手網で叩くようにして四つ手網の中央に寄せて、すくい取る。獲れるのは、岡山名物のママカリやエビ、イカ、セイゴ、ハゼ、カニなど。
獲れたてを、すぐさま小屋に用意された流し台で捌き、焼いたり揚げたりし、座敷で食すことができる。瀬戸内海を眺め、ときには夜通し自分たちで獲った新鮮な魚を調理し、皆でいただくのは忘れがたい思い出になるはずだ。海の幸と人の輪の豊かさを堪能できる、唯一無二の小屋といえる。
取材・文/加藤 純 写真/髙橋郁子
※この記事は『小屋入門3』(地球丸刊)に掲載されています