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もう20年も前の話。
友人宅で見せてもらった『The Rolling Home』てなタイトル(だったかな?)のアメリカの写真集に、腰を抜かしたことがある。
手作り感満載の「転がる家」が、100ページ以上にわたって紹介されていたのだ。
バスの壁をとっぱらってログキャビンに変えたものや、薪ストーブ搭載で煙突から煙を出して走るやつまで。「なんじゃこりゃ」てな、本なのだ。
車中泊は「目的」ではない。旅を続けるための「手段」なんだ。と、この本は教えてくれる。
クルマは旅の足であるとともに、旅の家なんだ。
この本を眺めていると、クルマの改造うんぬんより、なにより旅へ出たくなるのだ!
僕も、日産・セレナやルノーのカングーに乗っているときは、クルマをrolling homeとして使っていた(大げさな改造はせずシンプルに)。
が、数年前にフォルクスワーゲンのザ・ビートルに乗り換えたのだ。
最終モデル(2018年)ではあるけど、センターコンソールの作りやグローブボックスなどの仕様は、日本車から比べると、便利さとはほど遠い(ま、そういう姿勢が好きでこのクルマを選んだんだけど)。
シートは、フルフラットにならないし、倒れ方にまったく工夫がない。
そもそも、4人乗りで狭い室内。車高も低い。
これほど車中泊が似合わないクルマは、ないよな。
が、ザ・ビートルで出かけるたび、このクルマが「転がる家」になれば楽しいだろうな、と感じていた。
で、車中泊仕様としてみることにした。もちろん、大げさな改造はせず。
運転席と助手席の背もたれを前に倒し、後部座席も前に倒す(というか、これらのシートはフルリクライニングにはならず、前に倒す以外の芸を持っていないのだ)。
そこに「すのこ」を敷きつめる。
これでなんとか、ヘッドクリアランスは低いがふたり分の寝室ができそうなのだ。
ふたりで使う日が来るかどうかは別として、ひとり用の寝室は寂しいもんな。
というわけで、まずは荷室にすのこベッドの基礎となる収納ボックスを作ることにした。
しかし……これが難航したのだ。
最初は、木箱を作ってみた。が、あまりにも色気がない。重たくなるし。
続いて、木の棒と帆布で収納ボックスを作ろうと試したみた。が、強度に問題が。
そこで、アルミパイプと帆布の組み合わせを考えた。
アルミパイプのジョイントを木で作ってみたが、ことごとく、失敗。
強度が足らず壊れてしまう。強度を求めるとでかく(ごつく)なってしまうし……。
何時間も向かい風の中を漕ぎ続けるシーカヤック旅のごとく「Do It Myself」な日々が続いたのだ。
ザ・ビートル 車中泊ベッドDIY
木で作ったアルミパイプ用ジョイントは、ことごとく廃材と化した。組み合わせて強度を試そうとした瞬間、破壊したものもある。次のキャンプで、すべて焚き火に放り込んでやる!
結局、ホームセンターで見つけたAlframe(アルフレーム)の16mm角のアルミパイプと専用ジョイント使うことに。パイプを切る作業がはじまった。延々と。
作業終了後ビールを飲みながら、「もうしばらくは、アルミを見たくない」と思ったけど、手にしてるのはアルミ缶だった。
で、こんな感じ。
これに帆布を縫い合わせる。
ヘビーデューティなバッグを作るため、5年ほど前に買ったミシン「極」(babylock)の出番だ。生地は、あまりものを組み合わせることに。
あえて底はつけず。その方がなにかと使いやすいはずだ。なので、収納ボックスではなく、道具収納用パーテーションと呼ぶべきか。
底部の角は、自己満足度を上げるため革で補強した。
こうして、荷室に2つのギア・パーテーションが収まった。このパーテーションが、ギア収納兼、車中泊ベッド部の基礎となる。
続きは次回!
写真、文:堀田貴之
堀田貴之(ほったたかゆき)プロフィール
1956年大阪生まれ。
若きある日(ティーンエイジのころ)、『自由』という甘い香りの言葉を知った。あれから50年近く。旅の途上に、ようやく『自由』を実感する日々があらわれはじめた。
もうしばし、転がりつづけようかな。
本職は、しがない文筆家。
著書に、「バックパッキングのすすめ」(地球丸)、北海道一周シーカヤック旅後悔日誌「海を歩く」(山と渓谷社刊)、やれやれまたやってしまったわいの愚かな旅エッセイ「タルサタイムで歩きたい」(東京書籍)、テレマークスキー旅紀行「テレマークスキー漫遊奇譚~転がる石のように」(スキージャーナル社)、「ホットサンド 54のレシピと物語」(実業之日本社)、 「一人を楽しむ ソロキャンプのすすめ」(技術評論社)など。
アウトドアブランド・テンマクデザインの「ムササビウィング」「マルチホットサンドイッチメーカー」の生みの親。