昔から、「竹を割ったような性格」の持ち主になりたいと思っていた。さらには、「破竹の勢い」で世の中を駆け抜けたい、と。
生物学的に、竹は、木でも草でもないらしい。美しい話ではないか。
僕もまた、どこにも属さない男でありたい。
てなおとぎ話は、おいといて……
直径7cmほど、長さ30cm弱の古びた竹があったので、iPhone用のスピーカーを作ってみることにした。
木などで作られた、スマートフォンをセットして音楽を再生すると音が増幅するやつだ。スマートフォンの小さなスピーカーから出る音を、本体内部で反響させ、さらには音の通り道を抜けさせる。そのため音の響きが増すのだ。音が大きくなるわけだ。
木のボディが振動を吸収するからノイズも軽減される。てなことを言う人もいる。
でも、これはどうかな。ノイズの軽減というよりは、ある種の音が消される、ということじゃないのかな、とも思う。
が、しがないDIY好きの(しかも役に立たないものしか作れない)僕は音の専門家じゃないから、ほんとうのところはわからないけど。
市販のものは、音をより響かせるための様々な仕組みが施されている。音の流れをところどころせき止め、ボディをより振動させる工夫があったり、音の入り口をとことん狭くして、大きな出口を作ったり。
が、僕が作ったのはいたって簡単。
竹の節をくり抜いて、iPhoneを差し込む穴を開ける。iPhoneが本体に落ちてしまわないように、支えを内側につける。竹が前後に転がらないよう、4本の足をつけた。そして、音楽を聴きながら充電もできるよう、コード用の穴も開けた。
たったこれだけ。
驚くなかれ。このバンブースピーカーでiPhoneを鳴らせば、きみは、息を呑むぞ。腰を抜かすかもな。
こうして秋の夜長、自作「バンブースピーカー for iPhone」からは古いブルースが流れている。
乾き切った竹筒を抜けてくる音は、秋風のようにアンプラグドだ。その優しさは、まるで森の中で抱かれているようだ。
てな、浮ついたことをつぶやいてしまうのだ。
自作スピーカーに酔いしれ、ワインに酔いしれ。
こうして「竹を割ったような性格」とはほど遠い、胡散くさい言葉を並べるアホな自分を確認する夜となったのだ。
執筆者プロフィール
堀田貴之(ほったたかゆき)
1956年大阪生まれ。
若きある日(ティーンエイジのころ)、『自由』という甘い香りの言葉を知った。あれから50年近く。旅の途上に、ようやく『自由』を実感する日々があらわれはじめた。
もうしばし、転がりつづけようかな。
本職は、しがない文筆家。
著書に、「バックパッキングのすすめ」(地球丸)、北海道一周シーカヤック旅後悔日誌「海を歩く」(山と渓谷社刊)、やれやれまたやってしまったわいの愚かな旅エッセイ「タルサタイムで歩きたい」(東京書籍)、テレマークスキー旅紀行「テレマークスキー漫遊奇譚~転がる石のように」(スキージャーナル社)、「ホットサンド 54のレシピと物語」(実業之日本社)、 「一人を楽しむ ソロキャンプのすすめ」(技術評論社)などがある。
写真、文:堀田貴之