自然のなかで楽しむキャンプに虫はつきもの。完全にガードすることは難しいけれど、刺されたり、嚙まれたりの被害を軽減するために、虫たちの特徴や基本的な対策&対処方法は知っておきたい。アウトドアコンサルタントの小清水哲郎さんに教えてもらったぞ!
Q.夏のキャンプ場でとくに注意したい虫は?
A.被害に遭いやすいのは、蚊、ブユ、アブ。場所によってヤマビル、マダニに注意が必要
蚊やブユ、アブはどこのキャンプ場でも生息しています。また、山林に近く野生動物の多いエリアではヤマビルの被害が増えています。マダニはライム病を媒介することもありますので、刺された場合にはとくに注意が必要です。代表的な虫について、下記で特徴などを解説します。
蚊
大きさ:5.5mmぐらい
潜んでいる場所:風通しや日当たりが悪く、葉が茂っている場所
ヤブ蚊といわれるシマシマの蚊は、ヒトスジシマカという種類。日中、とくに早朝と夕方、雑木林の木陰や草むらなどでよく見られます。ヤブ蚊は、北海道を除く日本のほとんどの地域に分布しており、気温の上がる5月中旬から10月下旬にかけて活動して、22~30℃の時に活発に動きます。風のある日や太陽が照りつける場所では刺されにくいです。
ブユ(ブヨ、ブト)
大きさ:2~4mm
潜んでいる場所:渓流などの⽔辺近くの草むら
東ではブヨ、関⻄ではブトと呼ばれ、渓流などのきれいな水辺近くに生息し、主に夏場の朝夕に活動します。刺すのではなく、皮膚を嚙み吸血しますが、小バエほどの大きさで、目立ちにくく、吸血中も気がつかないことが多いです。吸⾎したあとは点状の出⾎が出て、強いかゆみとともに、熱も持ち、嚙まれた箇所は大きく腫れ、かゆみが数日間続きます。
アブ
大きさ:8~14mm
潜んでいる場所:川や沼などの湿地
アブは7〜9月の産卵時期に積極的に吸⾎をするので、温度や濃い⾊に反応して人にまとわりつきます。ブユと同様に、口で吸血する虫ですが、ブユよりも大きく、吸血時に大きな痛みを伴いますのですぐにわかります。そのあと、⾎がにじむような痕がつき、激しいかゆみや腫れが長く続くことも。患部をきれいな水で洗い流し冷やしましょう。かゆみや腫れがひかないときはなるべく早く医療機関へ。
マダニ
大きさ:吸⾎前3〜8mm、吸⾎後は10〜20mm
潜んでいる場所:⼭林、草むら、ヤブ
⽣息場所に近づいた動物や⼈に寄⽣し、吸⾎します。⽪膚にしっかりと⼝を突き刺して吸⾎し、満腹になると⾃分から離れますが、それが数⽇から10⽇間ぐらいかかることも。無理に引き抜こうとするとマダニの⼀部が⽪膚内に残ってしまい、炎症を起こしたり、ライム病などを媒介することがあるので、無理に剝がしたりせずに、できるだけ医療機関で処置を。専用器具を使うのも手。
ヤマビル
大きさ:2~7mm
潜んでいる場所:落ち葉の下など湿気の多いところや林など
ヤマビルは陸に棲むヒルで、湿気の多いところを好みます。体に吸盤があり、尺取り⾍のような伸び縮みする動きをします。⾬の⽇や、⾬のあとに、体温や息に含まれる炭酸ガスを感じて人に近づきますが、そのスピードは1分間で1mほどと意外に速め。体に張り付くと、移動して服の内側に入り込み、肌に吸着して⾎を吸い、血を吸い終わると自ら離れます。血を吸って大きくなるとナメクジサイズになります。
Q.キャンプサイトでイヤな虫を防ぐにはどうしたらいい?
A.体と空間、それぞれをガードして防ぎましょう
夏に人が過ごしやすい場所には、虫も多くやってきます。肌の露出が少ない服装と虫よけ剤、テントサイトは殺虫効果や忌避効果のある薬剤を用意しましょう。どの虫に対しても、服装の基本は肌を見せない長袖、長ズボン。⾊は⿊よりも⽩系。
蚊やブユは、肌に密着した服だと虫の針や口が届くこともあるので、ふんわりした服を選ぶのがおすすめです。逆に、ヤマビルやダニは、タイツのように肌との隙間がなく目の細かい素材の服が、入り込むことができず刺されにくくなります。
Q.蚊、ブユ、アブに刺されたり、嚙まれたりしたときの対処法は?
A.ポイズンリムーバーで毒を吸い出すのがおすすめ
蚊、ブユ、アブ、ハチなどは、ポイズンリムーバーという毒を吸い出すための道具を使うのがいちばん有効。ハチ毒を吸い出すための道具として知られていますが、実は蚊やブユ、アブなどでも、毒を外に吸い出してくれるので、かゆみや痛みを減らすことができます。
そのあと、⽔で洗い流して薬を塗り、かゆみがひどい場合は、保冷剤などを使って冷やすとかゆみがやわらぎます。抗ヒスタミン剤を含む薬品なども⽤意するとよいでしょう。
全般的にかゆみはヒスタミン軟膏で抑えられますが、もし、ひどい腫れなどの症状が出たときは、炎症を抑えるためにステロイド外用剤を使いましょう。
Q.ヤマビルに吸い付かれたら、引っ張って剝がしていい?
A.無理に剝がすのはNG。歯が残って化膿の恐れも
吸⾎中は⼩さな⻭で⾷いついています。無理に剝がすとその⻭が肌に残り、化膿することもあります。満腹になったら自分から離れるので、⾃然に剝がれ落ちるのを待つか、あるいはヒル⾃⾝が⼝を離すように仕向けましょう。
昔からある手法としては、ライターやタバコの⽕をヤマビルに近づけて剝がれ落とす⽅法があります。また⾍よけスプレーをかけると嫌がって離れます。傷口は水で洗い流し、抗ヒスタミン剤などを塗布しておきましょう。
Q.夏のキャンプ場でほかにも注意したほうがいい虫は?
A.ハチやムカデにも要注意!
サイト近くで足元周辺にハチが頻繁に飛んでいるようなら地バチの巣に注意しましょう。もしハチに刺された場合は、その場からすぐに離れて針を取り除き、ポイズンリムーバーなどで毒液を抜きます。そのあと、傷口を水で洗い流し、抗ヒスタミン剤を塗り、冷やします。
もしショックなどの異常などがみられたら、すぐに病院へ。ムカデは嚙まれると激痛が走ります。嚙まれたときは、毒を絞り出して抗ヒスタミン剤を塗り、患部を冷やしましょう。
Q.塩がヤマビルに効くってきいたけれどホント?
A.効果あります!
塩をかけることで、ヤマビルの体の中の水分を奪い、しぼんで殺虫できます。そのためヤマビルのいるエリアに入る際は、多めに塩を持参し対策しましょう。
また、塩を水で溶かしてスプレーにする方法は、塩分濃度が低いためか、あまり効果的ではありません。ちなみに吸血中に塩をかけると自分から口を離しますが、吸っていた血をそのまま吐き出すため、服が血だらけになりますので、注意が必要です。
Q.風の強い日や雨の日は、蚊に刺されないの?
A.刺されにくくなります
蚊は⾵速2m以上(そよ⾵)程度で⾶ばなくなるため、風のある日や、⾬の⽇は蚊に刺されにくくなります。夏のキャンプは日陰のある森や林のなかのサイトを選ぶことも多いですが、こういった場所では風が弱まるので蚊は活発に活動しています。⾵の抜けのよい開けたテントサイトは比較的、蚊には刺されにくいです。
教えてくれたのは……小清水哲郎さん
アウトドアコンサルタント。ウィルダネ ス リスクマネジメントジャパン理事。野外系の企画・開発をはじめ、チームビルディングアウトドア・キャンプ系の教育研修も行う。アウトドア製品の比較サイト監修でも知られる。
文:小清水哲郎
イラスト:岡本倫幸
出典:GARVY2022年8月号