カニ、そば、和牛、牡蠣に舌鼓
空気が凛と冷え込むこれからの季節は、野外活動からインドアに 旅も遊びもシフトするが、その筆頭に立つのはやはりグルメだ。
ただ、冬に旬を迎える海の幸と山の幸が同時にそろう場所は限られている。太平洋と日本海に面し、中央に高原を持つ兵庫県は、その条件を満たす希少な旅先といえるだろう。なお但馬へのルートは、途中に無料区間がある高速道路がおすすめだ。
兵庫のグルメ1 出石皿そば
「出石そば」は、「挽きたて・打ちたて・茹がきたて」の“三たて”を信条とする伝統食で、その歴史は江戸時代中期に、出石の藩主が信州上田藩の仙石氏に国替えされたことから始まる。
現在の「五枚一組が一人前」になったのは幕末以降で、屋台で出すときに持ち運びが便利な、手塩皿(てしょうざら)にそばを盛って提供したことが、そのきっかけといわれている。
\お得に食すなら/「出石皿そば巡り」
通常なら一人前(5皿)が800円以上する出石皿そばを3枚に減らし、38ある加盟店から3軒選んで2,000円(税別)で食べられるお得なプリペイド・システム。
巾着に入っている「永楽通宝」がチケットの代わりになる。なお、そば巡りの秘訣は行列店ばかりを狙わないこと。出石のそばはどこもレベルが高い。
車中泊情報
・おすすめは日中の観光。車中泊までは不要
出石の観光資源は、皿そばを含む「歴史と文化」なので、施設や店が営業している時間帯に訪ねるのがおすすめだ。また「重要伝統的建造物群保存地区」は狭い範囲で、2時間もあればひととおり見てまわれる。
つまり、ここであえて車中泊をする必要性は見当たらない。
出石には4カ所の有料観光駐車場があるが、利便性の高い「大手町駐車場」と「出石支所市営駐車場」は、休日なら午前中で満車になる。
10時までに到着できない場合は、最初から「西の丸市営駐車場」か「鉄砲市営駐車場」を目指そう。料金は1日・1回利用につき「大手町駐車場」が500円、その他の市営駐車場は400円。
出石の周辺には3つの道の駅があるが、車中泊の好適性から見ると、出石城下町からは約17km・30分で到着できる「道の駅ようか但馬蔵」がおすすめだ。構内には観光案內所があり、普通車の収容台数も100台以上で、駐車場は概ねフラットだ。
兵庫のグルメ2 但馬ビーフ
長命多産で山野草を好み、昔から「山で育て、草で飼う」といわれてきた但馬牛は、小型で丈夫な役牛として、狭い農地の多い但馬地方で昔から重宝されてきた。
食用化されたのは明治以降。霜降りで柔らかい但馬牛は、外国人の多い神戸で評判となる。現在の「神戸牛」は、最上の肉質を示すA5ランクの但馬牛の別称だ。
さらにその肉質と強い遺伝力に最初に着目したのが松阪と近江。今ではブランド牛は例外なく但馬牛の血を引いているという。
\本物の但馬ビーフを味わう!/ 道の駅村岡ファームガーデン
地元では但馬牛を「但馬ビーフ」と呼んでいる。国道を走れば、その上質なお肉を食べさせてくれるステーキハウスやレストランは目につくのだが、「精肉店」はそう簡単に見つからない。
どの地方でもそうだが、高級特産食材の多くは、地元の有名料理店と都会に出荷され、素材のまま現地で消費される量は限られている。
本物の但馬ビーフを購入し、食べるなら、道の駅村岡ファームガーデンがおすすめだ。
\但馬ビーフを買うなら/ 牛将
駅舎内に写真の本格的な精肉店を構え、日本農業遺産に認定された「兵庫美方地域の但馬牛システム」で育成した牛の肉を提供している。一頭買いしており、ホルモンが手に入るのも魅力だ。
\但馬ビーフを食べるなら/ レストランMO
ステーキだけでなく、常に50種類以上のメニューを用意している。人気が高いのは、お手頃価格のハンバーグで、「ハード」「スタンダード」「ソフト」と、肉質で味の違いを表現。写真は「ハードバーグセット」1,800円。
車中泊情報
・ベスト車中泊スポットは道の駅山陰海岸ジオパーク浜坂の郷
駐車場はフラットでトイレも申し分なくきれい。この道の駅の特筆すべき点は売店の品ぞろえだ。野菜や土産品に加えて但馬牛の精肉店があり、但馬の地酒「香住鶴」は驚くほどの種類がそろっている。
兵庫のグルメ3 松葉ガニ
松葉ガニは、日本海の水深200~400mの大陸棚斜面に生息しており、但馬では「底曳き網漁」により、例年11月6日から3月20日頃の解禁期間に、津居山港・柴山港・香住港・浜坂港などの漁港に水揚げされる。
とりわけ但馬から丹後にかけては漁場が近く、獲れたその日に水揚げして出荷されるため、新鮮で活きがいいとされている。
但馬で食べられるズワイガニは 2種類
よく見ると、茹でた松葉ガニと姿は似ているが、値段が半分以下のカニを並べて販売している店がある。どちらもズワイガニだが、こちらは茹でる前から色が赤っぽいことから、普通は「紅ズワイガニ」と呼ばれている。
だが、店によっては「松葉ガニ」「ズワイガニ」と表現している場合もあり、紛らわしいので注意しよう。安い理由は身の入りが松葉ガニより少なく、水分が多いからだが、肉には甘みがあって茹でるとおいしい。そのため大半は「浜茹で」されるか、クリームコロッケやちらし寿司などの具材に使われる。
\車中泊ウェルカム!/ かに祭り
2020年は新型コロナ対策の一環で開催が見送られたが、毎年但馬の各漁港では、松葉ガニ漁の解禁にあわせた独自の「かに祭り」が開催され、観光客が分散するよう少しずつ日をずらし、どこも前日からの車中泊による来場を認めている。ただ「かに祭り」の日はどこも大混雑するため、あえてその日を外して出かける人も少なくない。
車中泊で行きやすいのは「浜坂みなとカニ祭り」だ。写真は2019年11月16日に開催されたときの様子だが、トイレのある漁港の駐車場が開放され、多くの人が車中泊の前泊で訪れていた。
祭りではズワイガニの直売のほか、かにソムリエがさばく食事コーナーなどの特設イベントも行われた。
但馬でカニを食べるなら浜坂へ
京阪神では、浜坂は「カニが安く買える町」として有名だ。事実、ブランドガニでおなじみの間人(たいざ)がある京都の丹後半島から、兵庫の城崎温泉・香住を越えて、鳥取県との県境に近い浜坂まで来ると、松葉ガニの値段もずいぶんこなれてくるし、安価なロシアのカニも手に入る。
筆者が浜坂をすすめるもうひとつの理由は、車中泊環境の良さだ。2017年にオープンした「道の駅山陰海岸ジオパーク浜坂の郷」は、湯村温泉街から約7km、クルマで10分ほどのところにあり、1泊2日で両方の「うまみ」を存分に味わえる。
\冬はカニで大盛況!/ マル海渡辺水産
浜坂漁港に隣接する「マル海渡辺水産」は、1階が新鮮な地元の魚貝類が並ぶ海産物魚市場で、2階が食事処になっている。
車内では食べづらいカニだが、ここならリーズナブルに心置きなく食べられるとあって、車中泊旅行者にも好評だ。
写真は松葉ガニのカニすき鍋とカニ雑炊に、刺し身、紅ズワイガニが丸ごとセットになった「カニ会席」で、一人前5,500円。3月末までの期間限定コース料理で、要予約となっている。
ちなみに1階では、浜坂で水揚げされた松葉ガニに加え、近年ではほとんど見かけなくなったロシア産の生ズワイガニの冷凍品も手に入る。冷凍品は買うなら、「茹でガニ」ではなく、焼きガニや鍋に使える「生ガニ」のほうがおすすめだ。
兵庫グルメ4 播磨の牡蠣
通常、牡蠣は出荷までに2~3年を要するが、播磨の牡蠣は山から流れ込む豊富な滋養と、徹底した生産数管理により、1年間で出荷できるまでのサイズに育ち、くせのない味と、加熱しても縮まない身が特徴だ。
兵庫県で牡蠣の養殖が盛んなのは、室津・相生・赤穂の播磨西部地区で、例年12~2月に旬を迎える。
\牡蠣を堪能するなら赤穂へ/ 道の駅しおさい市場
赤穂市の坂越漁港の中にある漁協が運営する商業施設で、漁港で水揚げされた牡蠣や魚の直売と海鮮料理が人気。
牡蠣の食べ放題は、大人ひとり3,000円で、制限時間は70分。
車中泊キャンプで牡蠣を堪能しよう
キャンピングカーがいくら車内に調理機能を持っているといっても、つくれる料理はせいぜい鍋物くらいで、油が飛び散る炒めものや揚げものに手を出す人はいない。そしてその話は、特にレシピの多い牡蠣料理に当てはまる。
こういうときに利用したいのがキャンプ場だ。ルートの最後に播磨を持ってきたのは、キャンプ場なら牡蠣だけでなく、カニもステーキも炭火で焼ける。つまり、この日のために食材を買って持参するという手もあるわけだ。
なお冬に利用するなら、電源付きサイトや炊事棟に給湯設備のある高規格オートキャンプ場がおすすめ。ただし現在は「空前」とも呼ぶべきキャンプブームなので、冬でもキャンプ場は混み合っている。週末の予約は必須となるだろう。
\今回利用したキャンプ場/ 赤穂海浜公園オートキャンプ場
利用したのはファミリーサイト。赤穂海浜公園オートキャンプ場の区画サイトは、駐車スペースの傾斜がきついところが多いので、予約時に車中泊であることを伝え、できるだけ傾斜のないところをお願いするといい。
写真・文:稲垣朝則
出典:カーネルvol.48 2021年冬号
※当記事はカーネルvol.48の企画「車中泊で旅する」の内容の一部を抜粋したものです
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