旅する文筆家・堀田貴之による連載がスタート。ニュージーランドをひとりさまよい歩くことにした、さすらい旅の記憶。

第一話 子どもように小さくなりながら、クライストチャーチの空港に立つ

旅へ出ると、嫌な自分も好きな自分も、どっちもが顔を出す。いつまでたっても、60歳を過ぎても、青い自分がそこにいるのだ。

2020年、1月はじめ。
僕は、ニュージーランドをひとりさまよい歩くことにした。3週間ほど。目的は、とくになし。南島の南の果ての海岸で、ペンギンを探してみるか。と、いうぐらいのものだ。

あとは、肉をたらふく食って、各地のクラフトビールをたらふく飲んで。うまくすれば、はるか南海にアホウドリが飛ぶ姿を、わが酔眼に見つけられるかも知れない。その程度の動機である。

クライストチャーチの空港につき、レンタカーの手配をしたり、SIMカードを買ったり。当たり前のことながら、ニュージーランドへ着いてからは、英語しか通じない。旅がはじまったな、と実感する。

画像: ニュージーランドに到着した。

ニュージーランドに到着した。

レンタカーは予約なしで、現地で、しかも空港で借りたせいか、思った以上に高くついた。

20年ほど前に来たときは、町はずれの個人がやってるレンタカー屋さんで、オンボロ車を借りた。そのときの値段はもう忘れてしまったけど、「自転車じゃなく、車を借りたいんだけど」と聞き返したほど、安かった記憶がある。

そういえば、クライストチャーチの空港に、小型のアップライト・ピアノが置いてあり、「PLAY ME」と書いてある。

「おっ、ならば、ちょっと弾いてみるか」と歩み寄ったけど、「僕は、ピアノが弾けないんだった」てことを思い出して、やめておいた。こんなことなら、ピアノの練習をしておけばよかったな。

(空港だけではなく、僕が泊まったバックパッカーズ(安宿)の何軒かでも、ロビーにピアノがあった。だれもが自由に弾けるように。英語よりピアノの練習をしていく方が、旅人同士おもしろいコミュニケーションが取れるかも知れない)

画像: ニュージーランドでは、高さが150cmぐらいの小さなアップライト・ピアノを何度も見かけた。めちゃくちゃ古そうなやつも、安価で売っていた。持ちかえるには大きすぎだ。僕もこんなサイズのピアノが欲しい。

ニュージーランドでは、高さが150cmぐらいの小さなアップライト・ピアノを何度も見かけた。めちゃくちゃ古そうなやつも、安価で売っていた。持ちかえるには大きすぎだ。僕もこんなサイズのピアノが欲しい。

海外(白人の国)へ来ると、いつものことだけど、自分が子どものような気分におちいる。大きな白人たちに囲まれると、どう贔屓目に見ても、僕の体格は小柄で貧弱だ。性格までが、貧相とさえ、思えてしまう。

そして、英語が分からないことも、大いに引け目となる。当たり前のように英語をしゃべっている人たちが、大人に見えるのだ。

レンタカーを借りる際にも、延々と時間をかけて、いろんな確認をしなければならなかった。とくに保険のことは、意味がほとんど分からなかった。

でも、レンタカー受付のおねえさんは、できの悪い生徒を前にした教頭先生のように、一言一言をゆっくりと、ていねいにしゃべり、まぎらわしいことはわざわざ紙に書いて、対応してくれた(たぶん、振り向いたすきに、「まったく!」と、同僚に舌打ちをしていただろうけど……)。

そしてとどめは、便所である。便所に入ると、その気持ちに追い討ちをかけるように、小便器がでかい。でかく、高い。背伸びしないと届かないんじゃないか、と思ってしまうほどに。

ほんとうは背伸びしなくても届くんだけど、つい背伸びしてしまうのだ。

ついでに書けば、洋式便器も日本のふつうのものよりは座面が高く、座ると足がぶらぶらするんじゃないか、と心配してしまう。ようするに、完全に子どもになった気分である。

画像: ペンギン・ハイウェイの旅は、次回更新のお楽しみ。

ペンギン・ハイウェイの旅は、次回更新のお楽しみ。

出発の一週間前、ひとりの女性に「いっしょに行かないか?」と、声をかけた。もちろん、無理なのはわかっているけど。

すると、「わたしが、地団駄踏んで悔しがるような旅の話を期待してるわ」てな、素敵な返事が来た。

さて、わが旅はこの先、どこへ向かうのだろうか。とりあえず、南へ向かおう。ペンギンが待っている。

画像: 第一話 子どもように小さくなりながら、クライストチャーチの空港に立つ

今回の旅のお供。バックパックは、70年代の匂いがする「リーベンデールマウンテンワークス」と「ネイタルデザイン」とのコラボレーションで生まれたストライプ柄。「リーベンデールマウンテンワークス」は、70年代初頭にアメリカ西海岸(ワシントン州)で生まれたブランド。わが青き時代を思い出す、ノスタルジックな香り満載。ブーツは、30年来の付きあいであるダナー/マウンテンライト。サンダルは、ブルーダイヤ。

※当記事は2020年1月に取材したものです

著者プロフィール:堀田貴之(ほったたかゆき)

画像: 著者プロフィール:堀田貴之(ほったたかゆき)

1956年大阪生まれ。
若きある日(ティーンエイジのころ)、『自由』という甘い香りの言葉を知った。あれから50年近く。旅の途上に、ようやく『自由』を実感する日々があらわれはじめた。
もうしばし、転がりつづけようかな。
本職は、しがない文筆家。
著書に、「バックパッキングのすすめ」(地球丸)、北海道一周シーカヤック旅後悔日誌「海を歩く」(山と渓谷社刊)、やれやれまたやってしまったわいの愚かな旅エッセイ「タルサタイムで歩きたい」(東京書籍)、テレマークスキー旅紀行「テレマークスキー漫遊奇譚~転がる石のように」(スキージャーナル社)、「ホットサンド 54のレシピと物語」(実業之日本社)、 「一人を楽しむ ソロキャンプのすすめ」(技術評論社)などある。

運営サイト https://hill.ne.jp/

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