【概要】アメリカ・ACフューチャー社の電動RV「eTH」の紹介。左右、後部が拡張する自走式ワンボックスタイプRV。

イタリアの巨匠がデザインするトランスフォーム・ハウス

カリフォルニア州オレンジカウンティを拠点に、新しいモビリティの創造を目指して立ちあがったACフューチャー社。彼らが新しいRVの形として提案しているのが、eTHと名付けられた電動RVだ。

トランスフォーマー・ハウスを意味する名称で、この大きなワンボックスタイプのRVは、駐車時に左右並びに後方に大きく室内スペースを拡張。まさに家と呼べるような空間を生み出すことに成功している。

もちろん欧米のトレーラーやRVにはボディが左右に拡張して、室内空間が広がるモデルが実際に多数販売されているが、eTHが目新しいのは、その変形方法とコンパクトなサイズ。

小型といっても全長約6m、全幅約2.4mと小さくはないが、それでも既存で販売されているバスのようなサイズの本格RVに比べると、はるかに小さいサイズなのだ。

eTHがこのようなコンパクトなサイズ、かつ大きな室内スペースを生み出すことができた最大の理由は、やはり電動モデルだから。

EV最大の利点であるドライブトレイン・レイアウトの自由度の高さが際立つ。インホイールモーターを採用してしまえば、室内フロアはすべてバッテリーのためのスペースとなり、室内すべてが居住空間となり、デザインの自由度は一気に広がる。

運転席まわりの特徴としては、格納可能なハンドルを採用するなど、スペースを生み出すように工夫されている。

またeTHが過去の拡張型RVと異なるのは、変形してせり出す壁がエクステンドウォールと呼ばれる蛇腹のようなシャッター式となっていること。これによって過去にはなかった方式で広大な室内空間を生み出すことに成功している。

いっぽう、このクルマのデザインを手がけたのが、往年のフェラーリのデザイナーとして名高いピニンファリーナ社であるということも見逃せない。

イタリアを代表するデザイナー集団である同社は、クルマだけではなく高級ヨットやゴージャスなコンドミニアムなどの建築デザインも手がけるため、今回のプロジェクトには適任だったといえるだろう。

そんなプロ集団が仕上げたeTHはRVと呼ぶよりも、走行可能な家といったほうがいいかもしれない。トランスフォーム後のフロア面積はなんと37㎡にも広がり、ちょっとしたマンションの1室のようだ。

リビング、ダイニング、ベッドルームとそれぞれが独立したスペースとなっていて、そのほかにも広い空間がたっぷりと確保されている。

すでに写真の自走式ワンボックスタイプRVは完成しているが、今年から来年にかけて、さらに大きなサイズのトレーラータイプやハウスタイプの発表も予定しているというACフューチャー。

テクノロジーとハイセンスデザインの融合で、今後の展開が楽しみなブランドだ。

写真で見るAC FUTURE eTHのすごさ!

全高がたっぷり取られ、フロアも比較的高い位置に設定されたeTH。入り口ドアにアプローチするためのステップも自動で展開する。

ダイニング、リビングが完全に独立したスペースとなる広い室内。走行モード時にはベッドや家具類は壁面に収納されるとのこと。

室内が拡張展開したあと、それぞれのコーナーからは支柱が伸びて、フロアの重量を支える。

アウトドア・フィールドに持ち出せば、そこがまさにワンルームの一戸建てになるイメージ。いかにも「貨物」の箱を利用する日本のトレーラーハウスとは一線画す雰囲気だ。

四方全面がガラス窓となった、まさしくボックスタイプのデザイン。シンプルなデザインながらディテールにピニンファリーナの技が光る。

レンダリングイラストのため詳細は不明だが、継ぎ目のない床や壁の再現がどこまで実現するかが気になるところ。

外光をたっぷり取り込むキッチンと、とてもゴージャスな仕上がりのバスルーム。イタリアの調度品らしさが見え隠れするデザインだ。

ピニンファリーナの世界感が再現されているベッドルームは、高級ホテルもしくはエミレーツ航空などのファーストクラスのような仕上がり。

パノラミックビューが楽しめる運転席では、ハンドルまわりやモニターが格納式となる予定。

ドライブモードとハウスモードを比較すると、ファニチャー類の収納場所が予測できる。実現が楽しみな未来のRVだ。

拡張する壁面はエクステンドウォールと呼ばれる折りたたみ式素材を採用。

展開したルーフ上にはびっしりとソーラーパネルが敷き詰められる。

ルーフ先端には大気中から水分を取り出し、クリーンウォーターを生成するシステムが取り付けられる。環境が整えば1日50リットルもの水を確保できるそうだ。

文:Yusuke Makino(カーネルUSAブランチ) 
初出:カーネル2024年7月号vol.67