【概要】フォルクスワーゲン・ザ・ビートルの車中泊仕様DIYについてつづるエッセイ〈おまけ編〉。旅する文筆家・堀田貴之さんが執筆。

■フォルクスワーゲン「ザ・ビートル」で車中泊
the rolling beetle「shelter from the storm号」出発進行!
前編後編

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「眼福」「口福」という言葉がある。
その字のとおり、見て幸せ、食べて幸せ、という感じか。

うまい料理が美しく盛りつけられていると様子を「食卓から眼福、口福があふれ出てくる」という。
読むだけで、じわっとよだれが浮いてくる。

いまの季節なら、たたいた梅干しと刻んだオクラ、千切りのミョウガがたっぷりのった「冷やしぶっかけうどん」と、冷えたビール(ペールエール希望)だな。

あるいは、オリーブオイルでつやつやと光るトマトとパクチーたっぷり(ちょいハラペーニョ入り)のサルサメヒカーナがかかった「そうめん」もいいな。その横には、軽く冷やしたダークビールだな。

冷凍のベリー類が散りばめられたゆず味の冷製パスタと、冷やした白ワイン(シャブリがうれしい)も、ありだ。

もちろん、これらは僕の好みの話だけど(あしからず)。

それにしても、日本は熱帯の国になってしまった。

東京では、気温35度超えの日々が当たり前だ。30度と聞くと、ほっとするぐらい。

そんな日々には、「眼」に「涼」な光景が「福」を与えてくれそうだ。
「眼涼」「涼福」てな言葉が似合いそうな風景を眺めていたい。

【目に涼しさを感じることを「眼涼」と呼ぶ。そして、涼しい風を感じるその小さな幸せを「涼福」という。熱帯の国ならではの言葉である。】

広辞苑に、そんなふうに載る日が来るかもしれない。
来ないだろうけど。

というわけで、わがthe rolling beetle「shelter from the storm号」にも、サンシェードが必要不可欠だ。

広い面積をもつリアウインドウと、後部のふたつの三角窓には、黒いフィルムを貼るのが一般的だろう。

が、黒いフィルムを貼るのはいやだ。

偏見だらけの僕は、黒いフィルムを貼ったクルマに乗ってるのは、腹黒い男だ(政治家とか)と思ってしまうのだ。

なんたって、僕もまたじゅうぶんに黒い部分を持っている男である。
だから余計に、黒いフィルムはやめておく。

クルマに黒いフィルムを貼っている人を、腹黒い人と決めつけているわけではない(政治家は腹黒い、と心の奥底では思い込んでるかもしれないけど……)。

黒いフィルムを貼ることで自分のブラックさをさらけ出すみたいだから、僕のクルマには貼りたくない、というだけのこと。
爽やかな男を演出したがっているだけのことか……。

そこで、「眼涼」にして「涼福」である、「すだれ」を利用できないか、と考えてみたのだ。

熱帯の国になった日本にいま必要なのは、「すだれ」だ!

こうして、またまた役に立たない試行錯誤がはじまったのだ。
黒いフィルムを貼れば、楽だったのにな。

『ザ・すだれ・ビートル』までの道のり

はじめは、アルミシートをサイズに合わせて作ってみた。
が、まったくおもろしくない。
そこで、内側に古いアロハシャツを縫いつけてみた。

とたんに、ザ・ビートルの車内はハワイになった。
これは、楽しいではないか!
しかし、外から見ると窓にアルミシートが貼られたダサい車にしか見えない。
これじゃかっこ悪いよな。

リアウインドウ用に作ったアロハシャツ柄サンシェードは、実用にはいたらなかった。
ウインドウのアール(曲面)にフィットしない。
せっかく、アロハシャツの胸ポケットやボタンをそのまま使って作ったのになぁ。

ある日、すだれサンシェードを思いついた。
そこで、すだれを窓サイズにカットし、縁を布テープで巻く。
サイドの三角窓ふたつはこれでうまくいった。

が、リアウインドウはだめだ。
アロハ柄アルミサンシェード同様、アールのせいで、すだれがフィットしない。

そこでリアは、すだれらしく、垂らすことにした。
こうして、日本の夏「すだれ」ザ・ビートルが完成した!
これこそが、僕が欲しかった「眼涼」「涼福」だ。
すだれをくるくる巻いて収納するための、ひもと枯れ枝も装着した。

世界中の車中泊好きのみなさん。もし、どこぞのハイウェイでハバネロオレンジの『ザ・すだれ・ビートル』を見かけたら、手を振ってください。

堀田貴之(ほったたかゆき)プロフィール

1956年大阪生まれ。
若きある日(ティーンエイジのころ)、『自由』という甘い香りの言葉を知った。あれから50年近く。旅の途上に、ようやく『自由』を実感する日々があらわれはじめた。
もうしばし、転がりつづけようかな。
本職は、しがない文筆家。

著書に、「バックパッキングのすすめ」(地球丸)、北海道一周シーカヤック旅後悔日誌「海を歩く」(山と渓谷社刊)、やれやれまたやってしまったわいの愚かな旅エッセイ「タルサタイムで歩きたい」(東京書籍)、テレマークスキー旅紀行「テレマークスキー漫遊奇譚~転がる石のように」(スキージャーナル社)、「ホットサンド 54のレシピと物語」(実業之日本社)、 「一人を楽しむ ソロキャンプのすすめ」(技術評論社)など。

アウトドアブランド・テンマクデザインの「ムササビウィング」「マルチホットサンドイッチメーカー」の生みの親。