【概要】ペットとの車中泊避難生活について解説。準備しておくこと、ペット用避難用品リスト、ペットとのクルマ移動や車中泊避難生活の注意点など。ケージに慣れさせるコツも。

災害時、家族の一員であるペットを守るために

2024年1月1日、石川県で最大震度7を観測した能登半島地震。多くの人たちが避難生活を余儀なくされており、そのなかには犬や猫などのペットを連れて避難生活を送る人も少なくないはずだ。

そこで、車中泊専門誌『カーネル』が2023年1月に発行した『レジャーでも防災でも役立つ 車中泊スタートブック』より、「ペットと一緒に車中泊避難生活」について記した項を紹介しよう。

これはペットと一緒に車中泊で避難するときに注意すべきことを、環境省発行の「人とペットの災害対策ガイドライン」の内容から抜粋し、わかりやすくまとめたもの。ペットと車中泊避難を送っている人たち、また災害時に家族の一員であるペットを守る備えとして、参考になれば幸いだ。

普段から考えておくことと準備しておくものは何がある?

万一の災害時にペットを飼っている人はどう対応すればいいのか? そうした不安に応えるべく、環境省は「人とペットの災害対策ガイドライン」を発表している。これは東日本大震災や新潟中越地震、熊本地震での経験からまとめられたもので、非常にリアルな対応策となっている。

基本はペットと人が一緒に避難する「同行避難」だ。さらに、ガイドラインの内容を見ると、これまでの被災で問題となったのは、「災害時に人もペットもケガをした」「被災時に猫が外にいて同行避難できなかった」「ペットフードの支援がなかった」「ペットがケージに慣れずにストレスを与えた」「ペットシートに排泄せず、苦労した」とある。

こうした苦労をしないためには、平時の準備が非常に重要だ。

まず、「しつけと健康管理」だ。しつけは、「ケージに慣れさせる」「飼い主以外の人やペットを怖がったり、攻撃的にならないこと」「不必要に吠えない(鳴かない)」「ペットシーツやトイレ砂等、決められた場所に排泄する」ことができるように。

健康管理は「狂犬病予防と各種ワクチンの接種」「寄生虫の予防・駆除」を必ず行っておくこと。 こうした、しつけや健康管理ができていないと、避難所などに入れなかったり、入れても肩身の狭い思いをすることになる。さらにボランティアの支援が受けられないこともある。

車中泊といっても、駐車場でほかのクルマの人たちの迷惑になることもあるのだ。

また、ペットが行方不明にならないためにも、首輪には連絡先を記入した迷子札を付けておこう。さらに首輪が抜けても大丈夫なように、マイクロチップの埋め込みも、できればやっておくと安心だ。 

猫の場合……首輪は、引っかかり防止のために、力が加わると外れるタイプを。迷子札も一応付けておくが、首輪とともに外れる可能性があるので、「マイクロチップ」の装着と登録を。

犬の場合……首輪に飼い主の連絡先を書いた迷子札と鑑札、狂犬病予防注射済票を装着。迷子になって痩せて首輪が抜けることもあるので、「マイクロチップ」の装着と登録を。

避難用品の準備も忘れずに。ペットフードや水は5日分、できれば7日以上を。ケージ(キャリーバッグ)だけでなく予備の首輪とリードも忘れずに。「健康や命に関わるもの」「情報」「ペット用品」というリストを右に記載しているので確認してほしい。

そのほかに必要な準備としては、情報収集と家族での相談もマストだ。「ペットと車中泊ができる避難先はどこか」「家族の連絡方法や集合方法」などを決めておく。最悪の状況に備えて、緊急時のペットの預け先を複数確保しておこう。万一のときに、「預けられる」と思えることが、心の大きな安心となるはずだ。

備えておくべきリスト 3つの優先順位

〈優先順位1〉健康や命に関わるもの
・クスリ
・ペットフードと水(5日分以上)、食器
・ケージやキャリーバッグ
・予備の首輪とリード(伸びないもの)
・ペットシーツとトイレ用品(トイレ砂)

〈優先順位2〉情報
・飼い主の連絡先と、飼い主以外の連絡先
・ペットと自分が写っている写真
・ワクチン接種状況や検査結果など
・かかりつけの動物病院の情報

〈優先順位3〉ペット用品
・タオルやブラシ、ウェットタオル
・ビニール袋
・お気に入りのおもちゃ
・洗濯ネット(猫の確保・保護のため)
・ガムテープとマジックペン

ペットとクルマで安全に移動するために守るべきこと

ペットをクルマに乗せるときはケージ(キャリーバッグ)に入れるのが鉄則。もちろん、ケージやキャリーバッグをしっかりと固定することも忘れずに。

ペットとクルマで一緒に移動するときに優先すべきことは、「ペットの安全」だ。

基本は、クルマでの移動時には「ペットはケージ(キャリーバッグ)に入れる」。人がクルマに乗るときはシートベルトをするように、ペットはケージ(キャリーバッグ)に入ることが安全となる。

ペットは、人よりも小さいけれど、交通事故でかかる衝撃度は人と同じ。車内の窓や前席、ダッシュボードに叩きつけられないようにケージ(キャリーバッグ)で守るのだ。

また、ペットが拘束されていないときに交通事故などで窓が割れると、車外にペットが放り出される(逃げる)こともある。そうなれば、道路上で外に出たペットが後続車にひかれてしまうかもしれない。

高速道路でそんな状況に陥り、ペットだけでなく救出しようとした飼い主も一緒に、後続車にはねられることもあるのだ。

ペットが外を見えるようにすると、逆に不安になることもあるので、何も見せないようにしたほうが、落ち着くはず。暑くなりすぎないように注意を。

そして、絶対にやってはいけないのは、前席の乗員の膝の上にペットを乗せることだ。なぜなら、前席の乗員の前には、エアバッグがある。ペットを膝の上に乗せた状態で衝突事故が発生すると、エアバッグが展開して、人とエアバックがペットを押しつぶす。まさに悪夢のごとき惨状だ。

それだけエアバッグの展開力は強烈で、シートベルトを装着しないときに事故が起きると、子どもがエアバッグの展開の衝撃で死亡することもあるほどなのだ。

最後に気をつけることは、ペットだけで車内で留守番をなるべくさせないこと。冬場でも日差しがあれば、車内の温度は非常に高まる。特に犬は熱に弱いので、最悪、死亡に至ることもある。注意を怠らないようにしたい。

ペットと一緒の車中泊避難生活の注意

人もペットもストレス過多にならないように注意しよう。同じように車中泊でペットと避難している人がいたら「ペットの会」をつくっておくのがおすすめ。

避難所の駐車場などで、ペットとともに車中泊しながら避難生活を送るときは、周囲の人たちへの気配りを忘れないようにしよう。

同室ではないものの、鳴き声やペットのニオイが苦手だという人もいる。また、飼い主にとってはかわいいペットでも、他人からすれば、どんなに小さな犬でも怖いと思う人がいる、ということを覚えておきたい。

災害で避難するというのは、人にとってもストレスが大きいもの。それはペットも同じだ。ペットの体調に気を配り、不安を取り除くように心がけよう。特に犬は暑さに弱いので、車内の温度上昇には要注意だ。十分な水を用意しておくように。

同じように車中泊でペットと一緒に避難している人もいるはずだ。その場合、そうした人たちと「ペットの会」をつくることをおすすめしたい。困りごとを相談できるし、情報収集や支援を受けやすくなる。問題が出たときにルールもつくれる。

ペットと一緒に避難生活が厳しいとなれば、災害ボランティアの支援を利用しよう。日中のペット預かりなどの支援もある。無理して、飼い主がダウンしてしまうことだけは避けるようにしたい。

災害からペットを守れるのは飼い主だけだ。飼い主が無事でないとペットを守ることができない。自分の安全と健康を確保することが、災害時にもペットを適切に飼い養えることにつながることを忘れないように。

〈コラム〉ペットをケージに慣れさせるコツとは

犬も猫も、本来は狭くて暗い所が好きだということを覚えておこう。

普段、使っていないケージやキャリーバッグに、「災害だから」と、いきなりペットにおとなしく入ってもらおうというのは、相当に甘い考えだ。逆に、災害時にペットをケージに入れるのに手こずってしまい、人間もろとも被災するなんてことも。

そうならないためには、普段からペットをケージに慣れさせておくことが重要だ。

ポイントは、ケージを嫌いにさせないこと。そうではなく、「ケージは、自分の身を守れる、安心な場所」と教えるようにしよう。最悪なのは、普段は使わずに、病院へ行くときだけケージやキャリーバッグを使うというケース。それでは「ケージ(キャリーバッグ)=嫌な思い出」になる。

そのためには、普段からケージの中でオヤツや食事を食べさせたり、昼寝をさせるといいだろう。最初はケージの中に入っても、慣れるまで扉を閉めないようにするといい。

また、1日で慣れさせるのは難しい。1週間、1カ月という単位で考えよう。さらに、犬であれば、慣れてきたらケージ(キャリーバッグ)に入れて、どこかに遊びに連れていくといい。

ちなみに、犬や猫は狭い場所が好き。「ケージに入れるのは狭くてかわいそう」と思うのは、実は人間だけなのだ。

文:鈴木ケンイチ 
イラスト:小坂タイチ 
初出:車中泊スタートブック(2023年1月6日発行)