テントを使わず、乗ってきたクルマをテントがわりとする“車中泊キャンプ”が人気です。

テントを建てなくていいので設営時間を短縮できるし、雨が降ったとしても帰宅後に大きなテントを乾かす手間もなく多忙な社会人にもってこい。

設営・撤収にまつわる“時短”のおかげで、焚き火をしたり夜空を眺めたり、自然を満喫する時間をしっかり確保できる理想のスタイルでもあるのです。

車中泊キャンプの寝室となるクルマは、コレという決まりはありません。体をできる限り水平にして眠ることができれば、SUVでも軽バンでもなんでもOK。

天井や床に板を張り秘密基地のように仕立てているバンライファーも注目されています。

そこで疑問が。

キャンピングカーは車内に水道設備と炊事設備が備えられていますが、車中泊カーのキッチンは? 水道設備はどうすればいいのでしょうか?

キャンプインストラクターであり、テント泊と車中泊キャンプの旅、どちらも楽しんでいる野あそび夫婦(アオさん、エリーさん)に車中泊キャンプの設備や楽しみ方を教えてもらいました。

安心快適! 野あそび夫婦の車中泊キャンプ術を教えて

野あそび夫婦(アオさん、エリーさん)。埼玉・ときがわ町でキャンプ民泊「NONIWA」(https://noniwa.jp)を運営。

送迎にも使うキャラバンNV350「NONIWA号」。キャンパーバン・ビルダー「Ciel Blue」(https://cielbleu.jp)に依頼してカスタム。

野あそび夫婦が車中泊キャンプに使っているのは、民泊利用者を駅まで送迎する車両。

アオさんもエリーさんも自転車、トレッキング、チェアリングなど自然遊びが大好きなので、車中泊キャンプの旅でも遊び道具をたっぷり積み込みます。

そのためルーフトップテントを装備し、普段はそこで寝泊まりしているそう。ソーラーパネルによる電動なので開閉が簡単なんだとか。

「夏はルーフトップテントのほうが涼しいし、車内に遊び道具を入れたままでいいのが気に入っています。ただ、屋根への上り下りは億劫なので、一度上ったら朝まで降りないようにしています」(アオさん)

車内を寝室にすることもあります。

通常、シートによって生まれる凸凹はマットを敷いたり、ベッドキットを組んだりして解消しますが「知り合いが試作した段ボールベッドを使っています。強度は十分だし、とんでもなく軽い! 送迎車から車中泊カーに変えるのも簡単なんですよ」(アオさん)

段ボールベッドの上にブランケットを広げ、寝袋を敷けばこのとおり。ステキな寝室に変身です。

アオさんの身長ではベッドに収まらないので、ボックスにクッションを置いて長さをプラス。
全面ベッドは広くて快適ですが、車外からベッドに上るのが大変なのでナイスアイデア!

両側のドアはシェードで目隠し。日差しや視線から守ってくれるし、断熱効果もある“車中泊三種の神器”のひとつです。

「3列目の窓は開閉しないので、車内は両側に小物を吊り下げられるようにしています」(アオさん)

「夏の車中泊キャンプで困るのが蒸し暑さ。標高の高いキャンプ場を目指すことが第一です。換気扇はありませんが、ドアに網戸を取り付け、そのうえでサーキュレーターで湿気と熱を排出すればずいぶん楽」(エリーさん)

車中泊にしろ車上泊にしろ、テント設営がないので夕方チェックインしてもあわてずにすむそう。ギリギリまで遊べるのは車中泊キャンプの大きなメリットといえます。

自然を堪能する旅なのでタープはマストアイテム。オーニングを取り付けるという手もありますが、野あそび夫婦おすすめはタープをレインモールに取り付けるためのジョイント。

確実に固定でき、手持ちのタープを有効活用できるんです。

張り綱が干渉せず、クルマとタープをぴったり接続できて雨の日だって移動しやすく、布一枚なので乾かすのも楽ちん。

レインモールがない車両は、吸盤付きのフックを利用すればマネできそう。

NONIWA号のバックドアは跳ね上げ式。ちょっとした日差しや雨を防ぐことができるので、ココでくつろぐこともあるそうです。

ときがわ町の名産、青なすとトマト。

野あそび夫婦の場合、食材は旅先のスーパーで手に入れる派。知られざる名物やおいしい調理法を知るチャンスでもあるためです。

エリーさんは「ふたりとも旅先では凝った料理を作りません。生鮮食品のない商店しかないなら、カップラーメンでもいいかっていうスタンスです」とニッコリ。

青なすは普通のなすに比べて皮が固め。カレーにするとトロッとしつつも適度に食感が残っていい感じ。

最近のお気に入り料理は「たけだバーベキューのキャンプクラフトカレーキット」を使ったスパイスカレー。この日は夏らしく、トウモロコシごはんにかけていただきます。

「子ども向けの甘口から激辛まで、ひとりずつ辛さを調整できるし、さわやかな香りのスパイスで味変だってできるんです」(アオさん)

「レシピどおりの食材がなくても、ふたりで相談して作ってみようかってことも。ベストではないかもしれませんが、それでもおいしくいただけます」(エリーさん)

NONIWA号には電気調理器具も水道設備もありません。

「ごくまれに電気ポットを持ち込んで湯沸かしすることはありますが、基本的にアウトドアで調理して、そのまま外で食べます。車内に閉じこもるより気持ちいいですから!」と声をそろえた。

車中泊なのに車内で調理しないって変じゃない?

野あそび夫婦はツーバーナーやシングルバーナーをクルマの外に持ち出して料理をしています。
キャンピングカーみたいに車内で調理しないのはなぜでしょう?

アウトドア用のバーナーは屋外専用。長く伸びた草や落ち葉など燃えるものが近くにない、安定した場所で使用。

車内のように狭い場所では一酸化炭素中毒の危険があるし、ひっくり返すとやけどや火災の危険も。鍋料理で使うカセットこんろ使用もNG。

じつは車内のように狭い空間では、アウトドア用バーナーもカセットこんろも使用NG。

クルマに後付けする換気用ファン。

車内は狭く、寝袋など燃えやすいものがいっぱいあります。

ミニバンや軽バンに換気用ファンを取り付けたからといって、一酸化炭素中毒の危険は高いまま。

車内で燃焼機器を使用すること自体が非常に危険で、禁止されている行為なので、屋外用・屋内用問わず車内でバーナーを使った調理はやめましょう。

わざわざ危険を冒すよりも、青空の下で調理するほうが快適! 油跳ねやニンニクの匂いを気にせず豪快に調理できますよ。

青空キッチンに必要な道具は3つ

右から、ツーバーナーとジャグ、クーラーボックス。その奥のコンテナボックスには鍋やカトラリーなど調理小物入り。

野あそび夫婦に、青空キッチンに必要な道具と選び方を教えてもらいました。

必要なのはバーナーとジャグ、クーラーボックス。

夏は食品の保冷、冬は凍り付き予防にと一年中役立つクーラーボックスは大人ふたりなら容量30Lくらいが目安。

また、キャンプ場は炊事場完備ですが、こまめに手や食材を洗えるようジャグがあると衛生的です。

焚き火での料理はアウトドアの醍醐味ですが、悪天候時には焚き火ができません。手軽に湯沸かしができるガスやガソリンのバーナーもほしいところ。

キャンプ用バーナーは「◇PSLPG」マークを確認!

ちなみにキャンプ用のバーナーは法律で定められた検査に合格した印=「◇PSLPG」マーク付きのモノを。

ギアかぶりを避けて個人輸入する人がいますが、法律で義務づけられた検査に合格していないので使用は避けましょう。

ちなみに、中古品でも「◇PSLPG」マークの表示がないものは法令違反品なので、いずれ不要になったときに買い取りしてくれず、SDGs的にもアウト。

こちらは30年程前に購入したガスバーナーのOリング部分。何年か前に交換したまま放置していたものでOリングが白っぽくなって傷がいっぱい。

自分で交換できるモデルなのでOリングを取り外そうとしたところ、柔軟性がなく割れ、傷部分も欠けてしまいました。

このまま燃料をねじ込んだらガス漏れ必至。使用前にOリングのチェックすることも大切です。

また、バーナー内部にもOリングが使われているし、パーツそのものが劣化している危険も。ビンテージものや長く使っているバーナーは点検を依頼するか買い換えを検討するほうが安心です。

野あそび夫婦は、アオさんのお母さんより「自分で使って便利だったから!」とプレゼントされたボックスに、鍋や食器、カトラリー、シングルバーナーをまとめています。

フタ裏のメッシュポケットに小物を収納できるし、ポケットにカトラリーを入れたポーチを引っかけられるので、ひと目で欲しいものを取り出せるお気に入りなんだとか。

「普段は燃料だけ取り出して、このボックスはクルマに積みっぱなし。旅に出るときに燃料を加えれば、どこでも気に入ったところでくつろげるんです」(エリーさん)

キッチンはクルマの横? それとも後ろ?

クーラーボックスと燃料は炎天下NG。タープの下や車内など“風通しのよい日陰”で保管しよう。

バーナーとクーラーボックス、ジャグをまとめておくと調理しやすいのですが、安全のためにバーナーはクルマやタープの外、保冷効果を高めるためにクーラーボックスをタープの下など日陰に置く必要があります。

野あそび夫婦の場合、日の当たり方やサイトの形を考慮し、キッチンの場所を決めているそうです。

クルマの横を調理スペースに。

車中泊時の出入りは基本的にサイドドアなので、車内やタープとのアクセスを考えればクルマの脇にキッチンをレイアウトするほうが理にかなっています。

キッチンの炎や熱がタープに伝わらないよう、位置や距離、そして風の状態に入念な注意をはらうことも大切。

クルマの後ろをキッチンに。

クルマの後ろをキッチンとする場合、クーラーボックスやカトラリー類を車内に置けます。台がなくてもバーナーと高さがそろうのが便利。

車内の小物に手が届くのも後方キッチンのいいところ。

この夏、車中泊キャンプに出かけよう

野あそび夫婦は、お客さんやキャンプ仲間との交流から「ちょっとした遊びを取り入れて奥行きを持たせるキャンパーが増えているみたい」とキャンプスタイルの方向性を予測してくれました。

遊び時間をたっぷりとれる車中泊キャンプは、トレッキングや釣り、カヌー、ポタリングといったアウトドア遊びとの相性抜群で、野あそび夫婦の車中泊キャンプは“これからのキャンプ”のひな形にピッタリ。参考にして安全・快適で最高の思い出を作りましょう。

協力:一般社団法人日本ガス石油機器工業会 https://www.jgka.or.jp/
写真:上樂博之
文:大森弘恵