【概要】腰痛の予防策と改善法について解説。コンディショニング・トレーニング施設・ プライマリ メディカル サポートが監修。

クルマの運転と腰痛には密接な関係がある。職業ドライバーの職業病は腰痛であり、厚生労働省は、彼らに向けた腰痛対策にもなる健康指導を行っているほどだ。これはクルマ好きにとっては頭の痛い問題だ。そこで今回は腰痛をターゲットに、腰痛の予防策と改善法について解説する。

日本人の9割以上が腰痛!? 腰痛が「国民病」といわれる理由

腰痛もちの人は、身のまわりに必ずひとりはいるのではないだろうか。そういう自分もじつは……という人も多いだろう。

実際、日本では腰痛に悩む人が非常に多く、もはや「国民病」ともいえるほどに多くの人を悩ませている疾患なのだ。

厚生労働省による体の悩み(有訴者)調査によれば、男性では1位、女性では2位の症状が腰痛という結果に。

また、およそ10人にひとりは腰痛に悩んでいて、さらには一生のうちで腰痛に悩まされた経験がある人は9割以上というデータもある。

こういったデータからも、現在は腰痛とは無縁と思っている人も、決して他人事としてとらえてはいけないということがわかるはずだ。

腰痛が怖いのは、何の前ぶれもなく、ある日突然、強烈な腰痛に襲われ、痛みが慢性化してしまうところ。

それを防ぐには、日頃から腰に負担をかけない姿勢を心がける、ストレッチを行うなどの対策を講じることが必須となる。

腰痛は男性で1位、女性で2位の不調

※出典:政府統計 厚生労働省 2019年「国民生活基礎調査の概況」・性別にみた有訴者率の上位5 症状(複数回答)より抜粋・改変

グラフは2019年の結果だが、例年の結果に大きな差はなく、毎年のように腰痛は上位を占めている。

立つより座るほうが腰への負担は大きい!

腰痛もちが増えているのは、座る時間が長くなっていることも大きな原因だ。

高度成長期を経て、仕事でデスクワークが増えたことで日本人の座る時間が格段に増え、それに輪をかけてクルマが普及したことで、歩く、立つ時間が激減し、座っている時間がよりいっそう増えたことが、腰痛が増えた理由と考えられている。

ここで、「立っているより座っているほうがラクに感じられるはずなのに……」と、少し不思議に思う人も多いだろう。

コンディショニング・トレーニング施設・プライマリ メディカル サポートの金子先生いわく「じつは立っているときよりも、座っているときのほうが腰への負担は大きいんですよ。たしかに、体感的には座るほうがラクに感じるかもしれませんが、座位(座り姿勢)では、上半身の重さのほぼすべてが、腰にずっしりとのりますからね」

姿勢によって変わる、腰への負担についての調査結果でも、立位よりも座位のほうが腰の負担が大きいことがわかる(下グラフ)。

姿勢の変化と腰への負担(直立時の腰の負担を100とする)

※出典:姿勢の変化による椎間板内圧の変化 Nachemson A:The lumbar.An orthopaedic challenge.Spain 1:59-71,1976

体重70kgの人が立つときの腰への負担を100としたとき、ほかの姿勢がどれだけの負担があるのかを調べたグラフ。立つよりも、座るほうが1.4倍も負担が大きいのは驚き。

猫背の運転姿勢が腰痛を悪化させる

前のめりの姿勢なら、さらに腰への負担が大きくなる。前項のグラフからもわかるように、座って上半身を前に傾けると、立ったときの1.85倍もの負担が腰にかかるのだ。

つまり、背中を丸めて前傾姿勢で運転をすると、腰への負担は増大するということだ。

特に普段から猫背の人は、運転に集中しているとき、無意識に前かがみの姿勢になることが多い。

前かがみの姿勢とは、頭が体(肩)よりも前に出ている状態で、背すじを伸ばして座っているよりも、頭の重さを腰の筋肉などで支えなければいけなくなる。

その姿勢で長時間にわたり運転を続ければ、腰が悲鳴を上げることは想像に難くないはずだ。

こんなドライビングポジションに覚えがないだろうか。高速道路などで、だらりとした姿勢で運転していて、ちょっと姿勢を変えるつもりで、まるで寝返りのような感覚で、前かがみの姿勢で運転することもあるのでは。

左右バランスの悪いドライビングポジションも腰痛の原因

プライマリ メディカル サポートの岡崎先生によると、左右バランスの崩れも腰痛の原因になるという。

「前後だけでなく左右バランスが整っていないと、やはり腰へのダメージが大きくなります。どちらかに体が傾けて運転をするクセのある人は要注意です」

「左右に傾いた姿勢で運転するかな?」と、疑問に思う人もいるかもしれない。しかしイラストのドライビングポジションに覚えがある人は多いはずだ。

運転姿勢は、運転が長時間にわたると崩れやすくなる。そのため、1時間に1回でもいいので、背すじを伸ばして、前後、左右のバランスの崩れを正す意識づけを。簡単なことだが、腰痛予防効果は抜群だ。

週末やレジャーシーズンでの長時間ドライブや渋滞中に、左の図のような姿勢で座っていることが多いのではないだろうか。

このような姿勢だと、左右バランスが崩れた体を支えようとして腰の右側が痛くなる。

ドライブの前後や合間に行えば効果抜群! 前後・左右バランスを整える腰痛対策

腰痛対策は職業ドライバーだけではなく、一般の腰痛ドライバーにも必須。ここでは、腰痛の悩みをやわらげることができる簡単な対策を解説しよう。

前後バランスを整える

前後バランスの崩れによる腰痛対策には腰まわりの筋肉のストレッチが有効だ。腰まわりの筋肉をほぐすには、腰だけではなく、周辺の筋肉、たとえば股関節まわりや背中の筋肉もやわらかくすることも必要。下のストレッチは、運転後、長時間ドライブなら合間に行うと効果が高まる。

クルマの端など、座れる場所で行えるストレッチ。脚を大きく広げて両肘をヒザの上に置き、内股を広げるように少しずつ外側に押しながら背すじを伸ばす。顔は上げて正面を見るようにすれば背すじを伸ばしやすい。この姿勢を10秒キープ×2~3セット。

左右バランスを整える

左右バランスの崩れは運転中にちょっとした工夫をするだけで整えることができる。下の写真のように、二つ折りにしたタオルをお尻の左右の端に敷いて座る。

「左右のお尻にタオルを当てているだけで、上半身が左右のどちらかに傾いたときに、意識しやすくなります。傾きが意識できれば、人間の脳は無意識に左右の違和感を補正しようとするので、自然と上半身がセンターにきます」(金子先生)

上半身がまっすぐになれば、左右バランスが整うので、自然と腰痛予防につながるというわけだ。タオルを置くだけ、というとても手軽な予防法だ。

フェイスタオルなどサイズは小さめでも十分。ただし、薄すぎると意識しにくいので、二つ折りにするなどして厚みが2~3cm程度になるよう調整しよう。

教えてくれたのは…プライマリ メディカル サポート

体に不調を抱える人に施術を行っているコンディショニング・トレーニング施設。今回、アドバイスをくれたのは、同施設の岡崎倫江先生と金子雅明先生だ。彼らは、医学博士であり、筋肉と骨格の専門家、理学療法士(国家資格)でもある、“体の動きの”プロフェッショナルだ。

文:汽水丹治 
写真:宮田幸司ほか 
監修:プライマリ メディカル サポート 
初出:カーネル2023年5月号vol.60