【概要】キャンプギアブランド「SOTO」を展開する新富士バーナーの工場を取材。製品の製造工程や検査、ものづくりへのこだわりなどをレポート。

手軽なカセットボンベを使えるシングルバーナー「ST-310」、パッと開くと脚が飛び出すテーブル「フィールドホッパー」、「ST-310」のためのミニキッチンテーブル「ミニマルワークトップ」など数々のヒット商品を手がけている新富士バーナー。

1991年より愛知県豊川市に本社工場を構えてきたが、30年を迎えた2021年11月、旧社屋のほぼ隣の新工場へ引っ越ししたという。

コロナ禍も一段落したこの機会に、新工場見学に行ってきた。

新工場は旧本社工場同様、SOTOらしいグレーの壁。草焼きバーナーや工業用トーチという大きな柱となるプロダクトを有するにもかかわらず、でっかくSOTOのロゴがあしらわれている。

これひとつとっても、いかにSOTOブランドを大切にしているかがよくわかる。

パーツ製造から組み立てまで!

4月からテントまで加わりラインアップが大幅に増えたSOTOだから、当然すべての製品がこの工場で製造されるわけではない。こちらで製造されているのは生命線とも言える火器。

新工場ではざっくり「資材の保管」「加工してパーツを作る」、それらを「組み立てて製品に仕上げる」が行われている。

日本のガス製品は世界一厳しいと言われる基準が設けられていて、できあがった製品の中から決められた数を抜き取って検査されるのだが、新富士バーナーの生産工程では全数検査。

SOTOの評価が高まり品薄状態が続いても本社製造を貫いているのは、パーツ作りから出荷まで責任を持って生産できるためだろう。

製造部門。思いのほか人が少なく、でっかい機械がいくつも並んでいる。これらを用いて繊細な加工がなされている。

例えばNC旋盤では写真のような金属の棒を回転させながら刃をあてて削り、設計通りの形を作り上げる。

ただ、一方向にしか刃を当てられない機械もあれば、縦・横・斜めにも刃を当てて複雑な加工ができる機械もあるそうで、パーツの形によって使い分けているのだとか。

また、SOTO製品では使われていないが、大型バーナーを製造するための溶接部屋も用意されていた。

休むことなくいろいろなパーツが製造されていくが、この段階で狂いがあるとたとえ組み立てはできてもきれいな燃焼ができないかもしれない。

そのためパーツを抜き取り、狂いがないか調べるわけだが、これは人の目で確認するしかないという。人間の目、スゴイ。

ちなみに写真は1000分の1mm単位で狂いがないかを調べるための投影機と拡大鏡だ。

新工場は旧工場の約4倍もの広さになり、新しい機械を導入。スタッフも大幅に増えている。

さぞや生産能力が高まったのだろうと考えられるが、部品製造のオートメーション化が進んでも、パーツに狂いがないか、組み立てられた製品に不具合がないかの検査はすべて人の手で行われる。

いくら工場が広くなっても生産能力には限度があるわけで、ユーザーとしてはそれが残念であり、半面、変わらぬ誠実さがうれしい。

パーツを製造すると大量の削りかすが発生する。これらは業者に引き取ってもらい、リサイクル。

最新機械の間には古めかしい旋盤機がある。1972年製のこの機械はひとつひとつ設定し、加工するので量産向きではない。それでも現役なのは、職人さんに試作品を作ってもらうためだという。

「プログラムを打ち込まなくても、職人さんの技術ですぐに稼働します。開発室にも旋盤機があるけれど、当然、機械課の職人さんのほうが技術があるので開発担当ができない試作品を作ってもらいます。頼りにしています」(新富士バーナー・坂之上さん)

部材を保管する倉庫は、横向きにフォークが付いたリフトを使用。

方向転換しなくても必要な部材を出し入れできるので、通路をギリギリまで狭めて棚の数を増やしている。

「2階で組み立てを行っていて、当初はエレベーターで部材を持ち上げていました。けれどもエレベーターで持ち上げるのは効率が悪く、引っ越し後に2階の床を付け足してリフトで直接持ち上げられるようにしたんです」(新富士バーナー・坂之上さん)

SOTO製品は新品なのに、どれも火入れ済みだって知ってた?

新富士バーナー新工場の2階で行われているのは組み立て。1階のパーツ製造は機械の動きと人の目のすごさに驚いたが、正直、作られた部品がどう使われるものなのか、機械の実力についてはちんぷんかんぷん。

けれども2階ではよくわからない細かな部品が、人の手によって見慣れた製品に仕上がっていく。

ST-310のレギュレーター。

ニードルを使わずガス量を調整するレギュレーターストーブは、ニードル式よりも部品が多く、組み立てにも手間がかかる。

比較的大きなST-310よりも登山用のSOD-310(ウインドマスター)などはレギュレーターがひとまわり小さく、もっと組み立て技術が必要になる。

レギュレーターの組み立てに顕微鏡を使っているが、これは組み立てのためというより、細かな傷やゴミの確認に使用しているのだとか。

脚などを取り付けていく。手作業ながらジグを使って効率アップ。

一回押し込むだけで、バネを留める4つの樹脂パーツを一度で装着できる。ひとつひとつ取り付けるよりも断然早い。

組み立てエリアで目に付いたのがエアブローだ。

新富士バーナーによると、例えばキャンパー所持率の高いガス充填式スライドガストーチの調子が悪くなる原因は、微細なゴミなのだという。

気軽にポケットに放り込んだり土の上に置いたりするが、こうした何の気なしにやっていることでゴミが入り込み、着火しづらくなるそう。

スライドガストーチやマイクロトーチに蓋が付きはじめたのはこのため。

ごくわずかなゴミがバーナーの不具合につながるわけで、工場内には足踏みやガンタイプなどいろいろなエアブローが至る所に設置されており、各工程ごとに微少なゴミを取り除いている。

「1階はほぼオートメーションですが、2階の組み立ては手作業です。手作業のいいところはひとつひとつ確認しながら作業を進められること。検査に始まり検査に終わる。これが新富士バーナーです」(新富士バーナー・坂之上さん)

本体ができた段階で水没させてガスに見たてた窒素ガスを送り、漏れがないか気密漏れ検査を行う。

沈めたときに表面に気泡がつくことがあるので、それらを全部潰してからの検査になるし、窒素ガスも高圧と低圧の2パターンで確認。完全に水没させるので検査後には乾燥時間も必要だ。

「拡大鏡で確認した精度の高い部品を使い、組み付け時に顕微鏡でキズがないことを確認したり、エアブローでゴミを吹き飛ばすので、この段階で漏れが生じることはまずありません。

生産工程では不良品を市場に出さないことを何よりも重要視しています。だから新富士バーナーでは万一にも備えて全数検査を行っているんです」(新富士バーナー・坂之上さん)

五徳をつけ、製品が完成したらひとつひとつ火をつけ、検知炎を近づけて火漏れがないかを検査する。このとき、炎の状態や五徳が水平になっているかも同時にチェックしているそうだ。

「新品として売られている製品も、じつは一度火をつけているんですよ」(新富士バーナー・坂之上さん)

こちらはすべての工程が終わり、公的検査を待っているものたち。だれの手も触れられないようにして保管されており、どことなく緊張感が漂っている。

旧工場は製品の保管場所として活用

30年間稼働してきた旧工場は機械はなくなったけれど、資材や完成品の保管場所として今も使われている。

左から本社、旧工場、倉庫。出荷作業もこちらで行われており、ちょうどSOTOラッピングのトラックがいた。

こうしてみると新工場はかなりの大きさだと思い知る。

本社には売り場提案を兼ねたショールームも。限られたスペースに数多くの製品を並べてもらうためにパッケージや見せ方の工夫もあるようだ。

ショールームの片隅にあった、1978年創業当時に主力だったトーチ。当時は電柱での配線作業などで使われていたという。

基本的な構造はガソリンストーブと同じだが、予熱は搭載されている小さいバーナーに点火して本体をあたためるそうで、MUKAストーブとはまったく別物。

アメリカで「マイクロレギュレーターストーブ」を販売したのは2009年のこと。これがジワジワ話題となり、あれよあれよという間にSOTOの名が世界中に広まり、名誉ある賞に選ばれた。その証でもある楯と受賞作品がズラリと並ぶ。

今回、新富士バーナーの新工場と本社、そして非公開の開発室を訪れたわけだが、検査に次ぐ検査の様子から「絶対に事故がなく、楽しいキャンプ、登山をサポートするぞ」という気迫を感じられた。

近年は海外の製品でも簡単にガス製品を取り寄せられる。しかも安く、だ。

新富士バーナーの信頼度と心意気はプライスレス。「ほかの人とは違うものを手にしたい」「できるだけ安く購入したい」という心理は痛いほどわかるが、SOTOBIRA編集部としては、今後も変わらずSOTO製品をはじめとする国内規準を満たしたモノを応援したい。

写真、文:大森弘恵