軽トラキャンピングカーで「四国八十八カ所のお遍路」の巡礼地を車中泊でめぐった旅の記録。四国に点在する八十八カ所の霊場巡拝のほか、道の駅スタンプラリー制覇も目指して挑戦。彼の地を車中泊でめぐろうと思っている人へ、少しでも参考になれば幸いだ。旅人/新井芳夫

連載10話目:結願成就の前日まで! 66番札所・雲辺寺~82番札所・根香寺

2017年3月20日から5月8日までの50日間、全行程6817㎞。四国八十八カ所お遍路ひとり車中泊旅の連載10回目は、結願成就の前日までを記します!

気負わず旅の無事と結願を願う32日目

67番札所 大興寺。

今日から最終ラウンド。「道の駅たからだの里さいた」から香川県に入り、67番札所・大興寺からスタートします。出発地から大興寺までは約11㎞、20分くらいの距離で、今日の参拝順路は寺間の距離が12~14㎞とわりと短く、ゆっくりとした参拝順路となりそうです。

訪れた大興寺は山門に運慶作と伝えられる大きな金剛力士像があり、仁王門をくぐると、100段ほどの石段が待ち受けます。本堂には、願い事を書いて奉納すると七日間灯して祈願していただける「七日燈明」と言われる赤いロウソクが並び、不思議な雰囲気を醸し出す印象的なお寺です。

ここは天台宗と真言宗の二大宗派が並んで修行をしたと言われ、本堂の左側に弘法大師堂が、右側には天台大師堂が並んでいて、真言宗と天台宗が共存するとても異色な霊場のひとつです。

66番札所・雲辺寺は四国で一番最も高いところにある霊場。ロープウェイを利用して行くのだが、その長さも全長約2600mと、日本でも最大級の規模を誇る。

次の66番札所・雲辺寺は標高927mの雲辺寺山の頂上近くにある札所で、四国八十八カ所霊場で最も高いところにあるお寺。以前は急な坂道が2時間以上も続く難所のひとつでしたが、現在はロープウェイが開通しているので、快適に参拝ができるようになっています。

料金は大人往復2200円、中高生往復1650円、小学生往復1100円。JAFやかんぽの宿会員割引など、割引サイトを調べてそれを利用することも可能です。

ロープウェイの駅から境内にかけては、五百羅漢院の像がお出迎え。讃岐の札所である雲辺寺は香川県と徳島県の県境に位置しており、展望台からの眺めは香川、愛媛、徳島三県の山々を望むことができます。

同じ境内に68、69番のふたつの札所が建立

68番札所 神恵院。

次に訪れた68番札所・神恵院(じんねいん)、69番札所・観音寺は四国八十八カ所巡りのなかでも大変特異なお寺で、同じ境内の中にふたつの霊場が並んで建立されています。

境内はそれほど広くはなく、ともに日證上人により開山されたと伝えられるお寺です。本堂や大師堂は別々にあります。

69番札所 観音寺。68番札所・神恵院とともに、ひとつの境内にあるとても珍しい霊場で、納経は1カ所でふたつ一緒にできる。

山門には神恵院、観音寺が併記されていて、納経所では両方の御朱印を頂き、御朱印代も2寺分を支払います。お遍路旅としてはすごく効率的! また日本最古の落書きがあるとも伝えられています(真偽のほどは定かではありませが)。

こぢんまりとしたお寺の境内を興味深く見てまわって、御朱印をもらっても15分ほど。今までまわって来た階段の多いお寺の参拝と比較すると、短時間で終わり、得をした感じでお寺を後にしました。

長野県の名刹、善光寺を彷彿とさせる善通寺

75番札所 善通寺。札所も70番を越えると、大師のルーツである札所が出てくる。善通寺は弘法大師生誕の地といわれている。

次の75番札所・善通寺に到着したのは15時過ぎ。市内を走行していると、異様に大きな山門、寺の大塔が街中に現れます。昨日までのような階段の続く山寺ではなく、平地の街中の寺院です。

山門に近づくと駐車場の誘導員が手際よく案内し、係の人が素早く駐車料金の回収と「お参りはこちらです」と、善通寺への参拝へと誘導してくれます。

74番札所 甲山寺。

善通寺は四国の有名な観光地、金毘羅宮や土讃線の善通寺駅からも近く、多くの観光客が訪れる四国一の大観光地になっています。今日まで巡ってきたお遍路寺の雰囲気は、石段を登った深い山奥や、人里から離れた山肌にひっそりとたたずむ静かなお寺が多かったのですが、急に賑やかな雰囲気に。

お寺への参道は土産屋が立ち並び、長野県の善光寺を思わせるもので、急に観光地へ迷い込んでしまったような感覚です。

寺院の建物は鐘楼、金堂、本堂も大きくて立派な大屋根の建物で独特。周囲には白、赤、黄、緑、青の五色の幕が張られています。シンボルの五重の塔は高さ45mの総欅造り大塔で、四国八十八カ所で最大とのこと。

72番札所 曼荼羅寺。

また善通寺は弘法大師の誕生の地と言われ、京都の東寺、和歌山の高野山と並ぶ弘法大師三大霊跡のひとつ。真言宗善通寺派の総本山でもあります。

本堂、大師堂へ納経をすませて御朱印を頂き善通寺を後にします。

74番札所・甲山寺、72番札所・曼荼羅寺と御朱印を頂き、18時過ぎに本日の目的地「道の駅ふれあいパークみの」に到着。

道の駅ふれあいパークみの(香川④) 仮眠環境 ◎ 
18時過ぎの施設利用のためトイレ付近にゴミが散らかり残念。温泉施設が併設されているので利用客も多く終始、混雑状態。写真/Osami

ここは子ども用の大型遊具や流れるプールを備えた複合施設で、温泉施設も併設されています。私が到着した時刻でも広い駐車場はほぼ満車で、なんとか隅の駐車場を確保することができました。温泉施設を利用する人たちで終始、混雑している感じです。

愛車を拡張、展開し、就寝モードにした後、道の駅の施設を見学しながらスタンプを押し、お風呂セットを片手に温泉へ。1時間ほど浸かり、暗くなりかけたころに駐車場に戻ると、窓をふさいで車中泊の準備をしているクルマがずらり。温泉施設のある道の駅の夕方の光景です。

<32日目のお遍路データ>
走行距離 86km(累計4336km)
札所巡り 8打(累計73打)
道の駅スタンプ 3駅(累計133駅)
札所めぐりのルート
たからだの里さいた発→1 67番札所大興寺→2 66 番札所雲辺寺→3 香川③(道の駅ことひき)→4 68 番札所神恵院→5 69番札所観音寺→6 70番札所本 山寺→7 香川⑦(道の駅空の夢もみの木パーク)→8  75番札所善通寺→9 74番札所甲山寺→10 72番札 所曼荼羅寺→11 香川④(道の駅ふれあいパークみの)
※文中の丸囲みの数字はスタンプラリーの番号です

33日目「送迎用のバスがあるの!? 早く言ってよ~」

71番札所 弥谷寺。弘法大使が学問を学び、修行をしたとされる岩窟がある。

33日目は4時半には起床。明るく映る愛車の障子を開けると、今日も曇り空。春先の天候はなかなか安定しませんね。

日課の朝の散歩で昨日上がってきた坂道を歩いていると、71番札所・弥谷寺(いやだにじ)の駐車場への看板を発見。愛車に戻って今日の参拝順路を地図で確認すると、弥谷寺は道の駅のすぐ近く。ラッキー! 朝から得をした気持ちになりました。

8時過ぎには参拝順路の計画をナビに入力し、弥谷寺の駐車場へ移動。参拝の支度をすませて歩き出すと、いきなり坂道が続き、朝から険しい山道の参拝になってしまいました……。

76番札所  金倉寺。

しばらく坂道の参道を進むと古びた建物が両側に現れ、中央に参道が。ここが俳句茶屋と後から知ることとなります。

足元の悪い坂道をさらに進むと、弥谷寺の山門がやっと見えてきました。朝から苦行の参拝の始まりで、果てしなく急な石段が続きます。

休み休み、つづら折りの山道を登って行くと、神仏の世界に足を踏み入れる意味を込めて「賽の河原」と呼ばれている金剛拳菩薩像が若葉の陰から優しい顔立ちで出迎えてくれます。思わず手を合わせてしまう不思議な感情が湧き上がってきました。

しばらく小休止を取って休んでいると、麓からお遍路装束のグループが金剛杖を突きながら登ってきました。ワイワイと話しながら苦行の参拝を進めています。私より歳を重ねた女性も目の前を通過。朝から元気な人たちだと感心しました。

この旅で最もキツいお遍路転がしの結末は…… !?

78番札所 郷照寺。

金剛拳菩薩像の横には真っ赤な手すりの付いた108段の急な階段が続きます。この数は108の煩悩を落とす、四苦八苦を落とす、との意味が込められているとのこと。

手すりにつかまりながらやっと登りきると、正面に大師堂が現れます。本堂はさらに106段の石段を登った先にあるのですが、見渡すと山の傾斜に張り付くように鎮守堂や観音堂、持仏殿などの建物が石段でつながる大きな遍路寺となっています。

休憩所で体を休めてから、本堂、大師堂へと参拝し、納経所へ御朱印を頂きに向かいます。なんとか朝一番の苦行の参拝は無事終了となりました。

81番札所 白峯寺。

それにしても下の仁王門から540段の石段を登っての参拝……。今回のお遍路旅で最も苦行の遍路転がしとなりました。

と、思っていたら納経所の人に「下から送迎用のバスがありますよ」と教えられて、え~! そんな~マジか……とビックリです! 知っていれば朝からこんな大変な山道を登らなくてもすんだのに……と、つぶやきながらの参拝になりました。

送迎バスは片道400円、往復600円で利用できます。足の悪い人や、夕刻の参拝の方は利用をおすすめいたします。

73番札所 出釈迦寺。幼少時に弘法大師が身を投げたとされる。

また、大師堂では履物を脱いで堂内へ入ることができます。ツアーの人たちの先達さんに続いて合唱する様子は、本当に神仏の世界に来てしまったような錯覚を覚えてしまいます。

大師堂に隣接する護摩堂にも入ることができ、愛染明王や不動明王、地蔵菩薩の参拝も可能。弥谷寺はいろいろな体験や見学がたくさんできますので、ぜひ下調べをしてからの参拝をおすすめします。

次は73番札所・出釈迦寺に向かいます。出釈迦寺は弘法大師が身を投げたと言われる伝説のお寺。山門をくぐると右手に本堂、大師堂が並び奥に弘法大師が身を投げた「捨身ヶ嶽禅定」と呼ばれる奥の院があります。1920年に麓に寺が移されるまで札所だった場所です。

こちらは女性の住職さんがおり、私が訪れたときも大勢のお遍路さんの前でお寺の説明をされていました。

73番札所では歩きのお遍路もオススメ

77番札所 道隆寺。

お参りをすませて御朱印を頂き、寺を後にします。73番からはアップダウンの少ないコースが続きます。

札所間の距離もわりと少なめですので、しばらくの間クルマを止めておくお寺などを選び、歩きお遍路に挑戦してはいかがでしょうか。クルマお遍路の旅では良い思い出になると思います。これからお遍路旅を計画するみなさんへのアドバイスのひとつです。

77番札所・道隆寺は丸亀市街の平地の住宅地にある霊場で、山門の前に駐車場があり、山道を登るとすぐに境内に入れるので助かります。

山門には大きな仁王像があり、ご挨拶して山門をくぐり、境内に入ると正面に本堂、右手に大師堂と多宝塔、手前左側に納経所があります。

本尊は珍しい二体薬師という体内仏が収められた薬師如来像で秘仏とされています。また薬師如来は別名「眼なおし薬師」と呼ばれ本堂、横の「潜徳院殿」は眼の病にご利益があると伝えられ、昔から多くの参拝者が訪れるお寺と言われています。

79番札所 天皇寺。

また市内にはおいしいうどんのお店が多くあり、昼ごはんを食べがてら、市内散策もおすすめです。

お目当ての道の駅スタンプラリーも予定ルート上にあります。香川⑫(道の駅恋人の聖地 うたづ臨海公園)、香川①(道の駅瀬戸大橋記念公園)に立ち寄りスタンプをGET。

瀬戸大橋記念公園は絶景なり! 岡山県と香川県を結ぶ海橋・瀬戸大橋は完成当時、世界最大の吊り橋としてギネスにも登録。そのふもとにある瀬戸大橋記念公園は、大橋の大きさが分かるエリアとなっている。 

瀬戸大橋記念公園は瀬戸大橋の麓にある公園で、下から見上げると瀬戸大橋の巨大さにビックリします。また瀬戸大橋は鉄道橋で、電車が通るときは大音響が公園に響き渡り、迫力を体感できます。四国を訪れるときは立ち寄ってはいかがでしょうか。

16時過ぎに本日最後の82番札所・根香寺(ねごろじ)にたどり着きました。根香寺は五色台の青峰山の中腹にあるお寺です。

急ぎ足だが8カ所の札所をめぐることができた

82番札所 根香寺。

根香寺のご本尊は芳香漂う青峰の霊木を智証大師が彫った、千手観音菩薩が祀られています。木の根元から芳香を放つ霊木のある寺であることから、根香の寺名が付けられたと伝えられています。

仁王門をくぐると正面に本堂、手前右側に大師堂が、左側に納経所があります。16時を過ぎているので急いで本堂、大師堂と納経をすませ、御朱印を頂きに納経所に向かいます。16時45分終了すれすれで本日の参拝を終了することができました。

今日は朝一番の弥谷寺の山登りから始まり、8打ちすることができました。クルマお遍路として駆け足での参拝になってしまいましたが、次回はお寺の寺歴や見所を勉強してお参りしたいと思います。

<33日目のお遍路データ>
走行距離 94km(累計4430km)
札所巡り 8打(累計81打)
道の駅スタンプ 3駅(累計136駅)
札所めぐりのルート
道の駅みの発→1 71番札所弥谷寺→2 73番札所出 釈迦寺→3 76番札所金倉寺→4 77番札所道隆寺 →5 78番札所郷照寺→6 香川⑫(道の駅恋人の聖 地 うたづ臨海公園)→7 香川①(道の駅瀬戸大橋記 念公園)→8 79番札所天皇寺→9 81番札所白峰寺 →10 82番札所根香寺→11 香川⑩(道の駅滝宮)
※文中の丸囲みの数字はスタンプラリーの番号です

道の駅滝宮(香川⑩) 仮眠環境 〇
施設は少し古くなっているがトイレ付近は整頓されており、夜も静かに就寝できた。写真/Sunport1216

\次回、いよいよ最終回! ついに結願成就!?/

 

旅人プロフィール 新井芳夫

●埼玉県在住
●車中泊歴40年以上
●主な車中泊スポット:全国各地(道の駅が中心)

愛車のスバル・サンバート ラックで四国お遍路旅を楽しむ旅人。実は40年以上も前から国産ワンボックスカーにDIYを施して楽しんできた、車中泊のベテランでもある。

写真・文/新井芳夫
構成/野里卓也
出典/カーネルvol.48 2021年冬号