軽トラキャンピングカーで「四国八十八カ所のお遍路」の巡礼地を車中泊でめぐった旅の記録。四国に点在する八十八カ所の霊場巡拝のほか、道の駅スタンプラリー制覇も目指して挑戦。彼の地を車中泊でめぐろうと思っている人へ、少しでも参考になれば幸いだ。旅人/新井芳夫

第9回 最後のエリア讃岐の国へ! 54番札所・延命寺~65番札所・三角寺

2017年3月20日から5月8日までの50日間、全行程6817㎞。四国八十八カ所お遍路ひとり車中泊旅の連載9回目は、いよいよ最後のエリアである讃岐の国・香川県へ!

29日目は今治城に少し立ち寄り観光

54番札所 延命寺。

29日目「道の駅風和里」の朝靄の中で目覚めたあと、施設の周りを30分ほど散歩しました。海岸通りの散歩は「海なし県」住まいの私には新鮮で、毎日景色の異なる散歩は長旅の楽しみのひとつです。

54番札所・延命寺までは22km、30分くらいの距離ですが、当日は月曜の通勤時間帯のため少し時間がかかりそうだったので、国道196号の今治街道を海沿いに今治市内を目指します。

延命寺はこぢんまりしたお寺で、明治初期に移築されたと伝わる立派な山門をくぐると、正面に本堂が配置された静かな雰囲気のお寺で本堂、大師堂と、燈明お線香をあげ読経に入り、一日の安全運転も祈願して巡礼が始まります。

今日の札所はすべて今治市内で移動もラク

55番札所 南光坊。お遍路八十八カ所の中で「坊」と名の付く札所はここだけなのだ。

今日は順打ちで54~59まで6打を予定。すべて今治市内のお寺なので移動距離が短く楽です。

次の55番札所南光坊は正式な名称は「光明寺金剛院南光坊」といい、今治市の大三島にある神社・大山祇神社の別院として創建された歴史があり、度重なる兵火により焼失したなかで南光坊だけが再建され現在へ続くと伝えられています。広々とした境内の中に駐車場があり、クルマでそのまま乗り入れて下りてから、山門を入りなおすような感じになります。

海水が引かれた今治城の内堀には淡水魚のほか、クロダイにフグなどの海魚も泳いでいます。

次は今治城に立ち寄ります。今治城は市内の平らな地形にあり、400年前に藤堂高虎によって築城された海の水を引き込んだ海城で、日本のお城としては特異なお城です。城の入り口には今治築城400年を記念して2007年に鉄御門(くろがねごもん)が外観復元されています。

復元には多くの市民や企業の寄付が充てられています。見学のあとお遍路参拝に戻り、札所巡りを再開。

今治市内の作例山というこんもりした山の山頂近くにある58番札所仙遊寺は、ツヅラ折りの山道を上がっていくと金剛力士像に守られた山門が現れ、山門を左にさらに上ると境内前の駐車場に到着します。

宿坊もある仙遊寺にて住職の話を聞くのも一興

58番札所 仙遊寺。名前の由来は、この山に40年間こもっていた阿坊という仙人がある日、こつ然と雲と遊ぶように姿を消してしまった伝説から。

標高300mの境内からは今治市内が一望でき、遠くには瀬戸内海としまなみ海道を望むことができます。御本尊は千手観音菩薩です。本堂、大師堂とも本尊像、大師像が拝顔できるので、より一層の心読経に勤めることができました。

また、こちらはおいしい「精進料理・天然温泉の大浴場」で人気の宿坊があり、住職の小山田さんは“四国遍路を世界文化遺産に”の運動の発起人でもあります。宿坊へ泊まり、くだんの運動のお話を伺うのも、お遍路旅のよい思い出になると思います。

59番札所 国分寺。写真/Dokudami

59番札所・国分寺の参拝が終わるころになると薄暗い曇り空から雨粒が降りはじめ、今日の目的地「道の駅小松オアシス」へ向かいます。ここは今治と松山自動車道のJC近くの石鎚山ハイウェイオアシスに併設されている道の駅で、温泉施設があるので今日の目的地に決めました。

道の駅小松オアシス(愛媛⑯) 仮眠環境 ◎
松山自動車道・石鎚SAに隣接した道の駅で一般道や高速道路からも利用できる。温泉施設が併設し、夜は道路から離れた高台にあり静かに眠れる。写真/アラツク

早速施設内を見ながら、冷えた体で温泉に浸かる。暗くなった駐車場のかなたには松山市内の夜景が綺麗に耀き、静かな就寝となりました。

<29日のお遍路データ>
走行距離 76km(累計3997km)
札所巡り 6打(累計59打)
道の駅スタンプ 2駅(累計124駅)
札所めぐりのルート
風和里発→1 54番札所延命寺→2 55番札 所南光坊→3 今治城→4 56番札所泰山寺→5  57番札所栄福寺→6 58番札所仙遊寺→7  59番札所国分寺→8 愛媛⑩(道の駅今治湯ノ 浦温泉)→9 愛媛⑯( 道の駅小松オアシス)
※文中の丸囲みの数字はスタンプラリーの番号です

料金も高く、路面も悪い有料道路に辟易した30日目

60番札所 横峯寺。標高1982mという西日本最高峰の石鎚山の中腹にある横峰寺は、札所のなかでは3番目の高さにあり、かつては遍路ころがしの難所だった。写真/Dokudami

小松オアシスを出発して、最初の札所・横峯寺に向かいます。ここは今回の旅の最大の難所のひとつで、細く曲がりくねった凸凹な山道が35kmほど続きます。

山道に強い私の愛車でも手こずるほどの難所で、さらにこの山道はいしづち森林組合の管理する有料道路。ここを通らないと横峯寺に参拝できません。料金は普通車で1850円と高いのも気になります……。ちなみに歩きお遍路さんには有料の小型マイクロバスの送迎があります。

麓から山道を1時間ほど走ると、やっと有料道路のゲートが現れました。係の人がクルマを見るなり「キャピングカーですか?」と聞いてきます。すかさず「軽トラです、黄色いナンバーだよ」と、軽自動車料金1480円を支払いゲートを通過し、横峯寺の駐車場を目指します。

有料道路に入っても凸凹道の劣悪な道路がさらに続きます。こんな酷い道路を走ったことはありません……。ブツブツひとり言をいいながら横峯寺の駐車場に着くと、いままでの落ち込んでいた気分も払拭するほどの絶景が広がり、満開の桜が出迎えてくれました。

横峯寺は駐車場から山道を5~6分ほど下った所にあるので、カメラを首からぶら下げた参拝スタイルでジグザグな坂道を下っていきます。

お寺に向かう坂道の両側には山桜やツツジの花が咲き乱れ、新緑が眩しい快晴の参拝日です。境内は山肌を切り開いたようなお寺で、建物も新しく境内にもツツジが多く5月には紅い花で埋まり、大変素晴らしい景観を楽しめる寺院です。

千葉県から車中泊旅の夫妻に出会い、旅話が弾む

61番札所 香園寺。

参拝も無事に終わり眼下の松山の景色を眺めていると、年配のご夫婦から「昨日からお遍路寺で見かけたキャンピングカーですねー」と、話しかけられました。聞けば、スズキのジムニーで車中泊をしながらクルマお遍路をしているそうで、ナンバーを見て「千葉県からですか?」と伺うと、ご主人が定年退職したので、ふたりで千葉県からの旅を楽しんでいるとのこと。

シートを倒して車中泊しているそうで、「エコノミークラス症候群に注意して下さい」と話をしながら、クルマお遍路旅の話やら、どこで仮眠をしているのか等々、しばらく楽しい旅話が弾みました。また、お遍路先でお会いしましょうと別れて、駐車場を後にしました。

次は61番札所・香園寺に向かいます。香園寺は寺歴では、弘法大師が身重で苦しむ女性を栴檀(せんだん)別名ビャクダンの香を焚き、加持祈禱して安産させたという伝説があり、この地方では「子安大師」と呼ばれ安産祈願のお寺と慕われています。

マイントピア別子にて疲れを温泉で癒やす

62番札所 宝寿寺。

香園寺に到着すると、大きな体育館か市民ホールのような大きな施設が出現。これまでの札所とは異質な感じのお寺で、納経所の窓口で思わず「本堂はどこですか?」と訪ねてしまいました。

すると、大きな公園のような広い境内に体育館のような建物が本堂ですといわれビックリしました。本堂と大師堂に参拝し、無事御朱印を頂きました。

次は62番・宝寿寺です。この先の62、63、64番の札所は国道11号沿いに並んでいるので効率よく参拝できます。

参拝を終えたあとは「道の駅木の香」を目指します。道中のルートから、いったん外れた道程になります。「道の駅木の香」に到着し、スタンプ帳にスタンプを納めて施設を後にしました。最後は国道194号を同11号まで戻り、今日の目的地「道の駅マイントピア別子」に向かいます。

「道の駅マイントピア別子」は山深い緑に囲まれた川沿いにあり、レンガ造りの大きな施設で温泉施設があります。別子銅山の跡地を利用した鉱山のテーマパークで、当日は夕方の時間帯でしたが多くの観光客が訪れていました。

64番札所 前神寺。真言宗石鎚派総本山であると同時に修験道の根本道場として信仰を集め、その信徒は30万人超という。

愛車を駐車して、愛用のお風呂セットを片手に温泉へ。入浴料は500円で、ナトリウムやカルシウム塩化物で筋肉痛、関節リウマチに効能があります。連日の山道走行で腰の痛みがあり、不安を感じながらの移動の連続だったので、持病の腰痛が始まりかけていました。ゆっくり温泉に浸かり体調ケアに努めました。

道の駅マイントピア別子(愛媛②) 仮眠環境 ◎
山中の大きな施設で駐車場も広く、大型車の駐車場と分けられており夜は静かに眠れる。トイレも駐車場内に別棟で有り使いやすい。写真/Dokudami

<30日目のお遍路データ>
走行距離 102km(累計4099km)
札所巡り 5打(累計64打)
道の駅スタンプ 2駅(累計126駅)
札所めぐりのルート
小松オアシス発→1 60番札所横峯寺→2 61番 札所香園寺→3 62番札所宝寿寺→4 63 番札 所吉祥寺→5 64番札所前神寺→ 6 高知⑮(道 の駅木の香)→7 愛媛②(道の駅マイントピア別子)
※文中の丸囲みの数字はスタンプラリーの番号です

31日目はアクシデント発生も弘法大師のお導きを感じた一日に!

65番札所 三角寺。写真/Dokudami

今日は山深い道の駅スタンプラリーになるので、移動に高速道を使います。松山自動車道の新居浜ICから三島川之江ICで65番札所・三角寺へ。ここでアクシデント発生!

三島川之江ICを降りた所で三角寺へナビをセットするも様子がおかしく、ドンドン細い急勾配の山道をナビが案内していきます……。

段々畑のみかん山の山道を上り、枯葉が積もってクルマが通れそうにもない山道を案内していくのです。戻ろうと思うも、今更上がってきた道を戻るのもしゃくなので、クルマを進めました。

愛車の屋根に届きそうな枝の張った山道をしばらく進むと、歩きお遍路の道案内らしき三角寺への道標を道路脇に発見。どうやら歩きお遍路さんたちの通る道を案内されている様子。

行ける所まで行こうと進めると、程なく薄暗い山道が開け舗装の道が出現。三角寺の駐車場へ到着しました。ヤレヤレ……です。

昨日出会ったジムニー夫妻と再会!   これも旅の縁

ひと休みをしていると、昨日見かけたジムニーを発見、しばらく待っているとオーナー夫妻が笑顔でやってきました。

昨日の様子と、朝から迷子になったことなど自分のことをあれこれ挨拶しながら話していると、使っていた古いナビをジムニーに取り付けたものの、使い方がよくわからず、見てほしいと相談を受ける。参拝するお寺の電話番号を入力すると目的地の自動検索ができることを説明。初めはナビに慣れることが大事だと説明しました。

お互いの旅の安全を祈りつつ別れたあと、三島川之江ICから高知自動車道で新宮ICまで移動。新宮で「道の駅霧の森」に立ち寄り、道の駅のスタンプを押したあと、さらに再び高知道で大豊ICまで移動します。

一般道の国道319号も使えますが、ここは四国山脈を横断する道路で険しい山道が続き時間がかかるのと、スタンプラリー目的の「道の駅大歩危」へ向かう大豊ICからの道程も大変なため時間節約をします。

今日は大歩危の手前で「道の駅にしいや」を経由して、新祖谷温泉で温泉に。ここでも愛読書である『まっとうな温泉』が活躍して無料で入浴できました。

今日も昨日に続き温泉のある施設へたどり着く

道の駅 たからだの里さいた(香川⑭) 仮眠環境 △
施設のあちこちが傷んでおり、トイレも清潔感があまりない。しかし、裏手に大きな公園が隣接し、その奥には温泉もあるのはよい。写真/Dokudam
 

新祖谷温泉で15時を過ぎているので、急ぎ入浴して国道32号に戻り、今晩の目的地「道の駅たからだの里さいた」にクルマを進めます。

到着したころには18時を過ぎ、道の駅の施設も終わりの時間になっていました。まだ外は明るく日没は日増しに伸びています。道の駅の施設の裏側の駐車場へクルマを移動し、素早く愛車をセットし、夕食に。

今日も無事に目的地へたどり着くことができました。この施設は広い公園の入口付近に道の駅の施設が立地し、奥には立ち寄りの温泉施設もあり、地元の人たちの憩いの公園になっています。

<31日目のお遍路データ>
走行距離 155km(累計4254km)
札所巡り 1打(累計65打)
道の駅スタンプ 4駅(累計130駅)
道の駅スタンプラリーめぐりのルート
マイントピア別子発→1 65番札所三角寺→2 愛媛㉔ (道の駅霧の森)→3 徳島㉔(道の駅大歩危)→4  徳島⑤(道の駅にしいや)→5 香川⑭(道の駅たから だの里さいた)
※文中の丸囲みの数字はスタンプラリーの番号です

 

旅人プロフィール 新井芳夫

●埼玉県在住
●車中泊歴40年以上
●主な車中泊スポット:全国各地(道の駅が中心)

愛車のスバル・サンバート ラックで四国お遍路旅を楽しむ旅人。実は40年以上も前から国産ワンボックスカーにDIYを施して楽しんできた、車中泊のベテランでもある。

写真・文/新井芳夫
構成/野里卓也
出典/カーネルvol.47 秋号