軽トラキャンピングカーで「四国八十八カ所のお遍路」の巡礼地を車中泊でめぐった旅の記録。四国に点在する八十八カ所の霊場巡拝のほか、道の駅スタンプラリー制覇も目指して挑戦。彼の地を車中泊でめぐろうと思っている人へ、少しでも参考になれば幸いだ。旅人/新井芳夫

第4回 ついに四国へ上陸。1番札所・霊山寺~19番札所・立江寺

2017年3月20日から5月8日までの50日間、全行程6817㎞。四国八十八カ所お遍路ひとり車中泊旅! 連載4回目は、ついに!? ようやく!? 四国に上陸した最初の3日間(全行程の14日目から16日目)のルートをたどる。さあ、ついに巡拝がスタートするぞ~!

14日目にして、ついに1番札所・霊山寺へ

13~14日目に仮眠した道の駅第九の里(徳島⑬)。仮眠環境は〇。高速ICから近く、トイレも清潔で使いやすい。水場も施設の外にあり、利用可能。※道の駅の丸囲みの数字はスタンプラリーの番号です。

本日から、いよいよお遍路旅が始まります! 30分くらい道の駅第九の里の周りをのんびり散策。四国でも桜が咲きはじめて、きれいな花弁が目に映りました。今日は、山道走行が少ないのでゆっくりの出発です。7時ごろから朝食をとり、8時30分過ぎにはお遍路支度をして、最初の札所である徳島県の霊山寺に向かいます。

大型観光バスと参拝者の多さにびっくり

1番札所 霊山寺/八十八カ所のなかで、最初に訪れた霊山時。風格のある仁王門がお遍路たちを迎えてくれる。

道の駅第九の里から5~6分で霊山寺に到着。霊山寺はお遍路旅の出発点のお遍路寺です。朝9時前だというのに、もう4~5台の車が並んでいました。道路を挟んで反対側から山門を撮影。いよいよお遍路旅がスタートです。

持参した参拝グッズを準備。不足している納経帳や納札、輪袈裟の3点を購入するため、お遍路用品販売店に入りました。用品の多さに気移りしながらも、参拝支度を整えて山門へ向かい、勉強した手順を確認しながら参拝します。

「一礼合唱」して、山門をくぐり境内に入り、手水場で手を清めます。初めての霊場参拝なので、間違えていないかと緊張しました。そして、本堂に向かいロウソクとお線香をあげ、お賽銭と納札を箱に入れます。自宅で般若心経を毎日読経し、暗記した経本を見ながらの本番です。

本堂、大師堂と続けて参拝して30分ほど。参拝手順書を見ながら、大きな声を出して真剣に読経したのですが、ほかの参拝客の読経に圧倒されてしまいました……。つかえながらも読経をなんとか終了。こうして1番札所霊山寺の参拝を、無事終了することができました。

しかし、初めてのお遍路旅初日で興奮していたようで、霊山寺境内の建物や景色は、頭にほとんど残っておらず。それよりも、駐車場へ次々と到着する大型観光バスが目につきました。そこからぞろぞろと降りてくるお遍路支度の人たちの様子は、1番札所である霊山寺ならではの光景だと思いました。

参拝アドバイス!

昼食に注意!

お遍路旅では、昼食で食事処を目指そうとしても、道路沿いにレストランや食事処があるとはかぎりません。遍路道には、商店街を通るルートは少なく、田んぼばかりの地区や山間の道ばかりで、周辺に食事処はあまり見当たりません。

とはいえ街中を通る際に、コンビニエンスストアを見かけるので、そこでおにぎりやサンドイッチなどの軽食を用意することをおすすめします。また、お遍路道の食事処は、昼食時だけの11~14時くらいまでの営業時間が多く、その時間帯を過ぎると、お休みになる店もあるので注意が必要です。

2番札所の極楽寺は霊験あらたかなお寺

2番札所 極楽寺/名称のとおり極楽を思わせる庭園が特徴のお寺。本尊は、弘法大師が当地にて修法した際に彫ったとされる阿弥陀如来像。その阿弥陀如来像が放つ光は遠く鳴門の海まで達したという。

極楽寺は1番札所の霊山寺からは1.1kmと近いので、車だと2~3分で着きます。徳島県の遍路旅は札所間の距離が近いお寺が多く、歩きでも十分移動が可能。極楽寺は赤い山門が目印で、門をくぐると早春の桜が迎えてくれ、心が温かくなりました。

山門を進み、広くきれいに整備された白い玉砂利の道へ。岩石と樹木がうまく配置された、みごとな枯れ山水の庭園が心を癒してくれます。

また、本堂へ向かう石段の手前には「長命杉」の巨木があります。これは、弘法大師お手植えと伝えられる樹齢1200年の老杉。この樹皮に触れると、長寿が授かるといわれています。お遍路では、こうした霊験あらたかな札所が数多く出てきます。

さて、そんな極楽寺。修行中の弘法大師が、現れた阿弥陀如来の姿を写したとされる本尊。そして、難産の女性が大師の祈願により、無事安産したことから、安産祈願のお寺としても有名です。

極楽寺もそうですが、このお遍路旅は山寺が多いのも特徴です。段数の多い階段の上り(下り)はもちろん、細い山道を歩くことも。履き慣れた靴を準備することも大切です。

極楽寺でも、本堂、大師堂で読経を納めて、納経所で御朱印をいただき、お寺をあとにしました。

5番札所 地蔵寺。

6番札所 安楽寺。

7番札所 十楽寺。

<14日目のお遍路データ>
走行距離 63km(累計2316km)
札所めぐり 9打(累計9打)
道の駅スタンプ 1駅(累計73駅)
札所めぐりのルート 
道の駅第九の里(徳島⑬)→1番札所霊山寺→2番札所極楽寺→3番札所金泉寺→4番札所大日寺→5番札所地蔵寺→6番札所安楽寺→7番札所十楽寺→8番札所熊谷寺→9番札所法輪寺→道の駅どなり(徳島④)→道の駅第九の里
※道の駅の丸囲みの数字はスタンプラリーの番号です

不安な山道と変則参拝!? だった15日目

10番札所 切幡寺/ハサミと布を持つ娘をモチーフにした千手観音菩薩像が置かれるお寺

10番札所の切幡寺は、四国お遍路旅の難所のひとつです。出発地の道の駅から、カーナビを見ながら切幡寺を目指したのですが……。細い山道を案内され、朝から迷子になりそうでした。

「本当にこの道でいいのか……?」と思わせる細い道が次々と出現。門前町のような雰囲気の道を進み、高速道の高架下をくぐると、道幅が少し広がり、さらに進んでいくと、ようやく切幡寺の山門が現れました。

山門からは、駐車場を探すために、さらに急勾配の細い山道を奥に進みます。そこで5~6台が止められる小さな駐車場に、やっとたどり着きました。道中は、急勾配の細い山道のため、すれ違いも困難。折り返し点でギヤを4WDに切り替えて、ゆっくり登るような状態です。

これから切幡寺へ行く予定の人は、上部の駐車場へ向かう山道には要注意です。山門の隣にある駐車場のほうが安全です。

さて、切幡寺は山に張りついたような感じのお寺です。山門から、333段の石段を800mほど上りきった場所。団体客の大型バスは、本堂前の境内の、小さな駐車場まで上がれません。

本堂は、拝殿土間と本堂と奥殿の三重構造で、奥殿には秘仏千手観音菩薩が祭られています。ここでは、国の文化財に指定されている大塔や、はたきり観音像が見どころでしょう。境内にある鐘楼の鐘を突くこともできますが、ひとり1回までと注意書きがありました。

お遍路2日目は、朝から大変不安な道を案内され、今回のお遍路旅でも思い出に残る参拝になりました。

参拝アドバイス!

お遍路旅の洗濯はコインランドリーで

お遍路旅は2~3日で終わる旅ではないので、食事や下着の洗濯をしなければなりません。つまり、コインランドリーの利用は必須です。それは、車でも歩きでも同様です。最近は、旅先でコインランドリーの看板を見かけることも少なくありません。大変便利になりました。

禅宗の藤井寺のあと、大日寺で変則参拝!?

11番札所 藤井寺/藤井寺の見どころは4月上旬から。藤の花が咲き誇る。

四国お遍路の順打ち(順番に参拝していくこと)は、徳島県を流れる吉野川を渡り、四国の中央部を東西に貫く四国山地へと順路を変えます。吉野川を渡って最初に訪れるお寺が、11番札所の藤井寺です。

四国霊場では2カ所しかない禅宗のお寺であり、寺を「てら」と呼ばせるのはここだけ。御本尊は薬師如来。弘法大師が42歳の辰年にこの地で護摩供養し、薬師如来を刻んで五色の藤を植えたのが、寺の始まりと伝えられています。

見どころは、弘法大師お手植えと伝えられる「五色の藤」。4月下旬~5月上旬には、境内一面、藤色に染まります。また、本堂の天井に描かれた雲龍も見どころのひとつ。地元吉野川市出身の日本画家・林雲渓の作品で、1977年に描かれたもの。

ちなみに四国お遍路の難所である「遍路ころがし」のひとつは、ここ藤井寺の本堂の脇から、次の焼山寺までの13㎞の山道とのこと。

本日の参拝は、札所13番の大日寺で終了予定。……だったのですが、常楽寺の参拝が終わるころには、16時をまわっていました。お遍路の参拝時間は17時までなので、カーナビを頼りに先を急ぎます。

常楽寺から5分くらいで到着しましたが、16時を大きく経過。寺の駐車場は少し離れたところにあり、小雨も降りだす始末。やっと山門をくぐり境内へ。納経所が閉まる時間が迫っていたので、先に御朱印をもらうことにしました。

本来であれば、本堂と大師堂の参拝が終わってからの御朱印。しかし、17時を過ぎると納経所が終了してしまうので、変則参拝となりました。納経を済ませて参拝を終え、本日の参拝は、ここ大日寺で打ち止めとなりました。

ところで、大日寺の本堂の前に座っている「びんずる様」。願いごとを唱えながら、その真っ赤な体を撫でると、願いが叶うといわれています。
 
ということで、無事参拝も終わり、今日の目的地、16㎞ほど先の「温泉の里神山」へ向かうことに。

<15日目のお遍路データ> 
走行距離 138km(累計2454km)
札所めぐり 7打(累計16打)
道の駅スタンプ 3駅(累計76駅)
札所めぐりのルート 
第九の里→10番札所切幡寺→道の駅藍ランドうだつ(徳島⑩)→穴吹温泉→道の駅貞光ゆうゆう館(徳島①)→11番札所藤井寺→17番札所井戸寺→16番札所観音寺→15番札所国分寺→14番札所常楽寺→13番札所大日寺→道の駅温泉の里神山(徳島⑨)
※文中の丸囲みの数字はスタンプラリーの番号です

16日目は驚きの阿波遍路三大難所「遍路ころがし」

12番札所 焼山寺/札所では2番目に高い場所にある焼山寺。昔は険しい道だったが、今はクルマで行ける。参道や境内には樹齢数百年という杉の巨木が立ち並ぶ。

4日目は、「遍路ころがし」の寺、12番札所の焼山寺からスタートです。「遍路ころがし」とは、お遍路さんが転落してしまうほど、過酷で危険な難所という意味。

歩き遍路さんだった場合、11番札所の藤井寺から6時間くらいかかる、「第一の遍路ころがし寺」といわれているお寺です。

歩きお遍路さんには大変な道のりですが、クルマのお遍路では、近年道路も整備されて、安全に参拝できるようになりました。

道の駅温泉の里神山からは、国道438号と県道43号で11㎞、20分ほどかかります。四国お遍路前半の難所です。

ここまでの札所は、先に書いた極楽寺以外、ほとんどが平地中心。のんびりとしたお寺が多かった印象です。しかし、このアクセスルートは、クルマのすれ違いも大変なほど、狭くて曲がりくねった山道走行になります。

たどり着いた駐車場は広く、そこから山道を10分ほど歩くと山門に到着します。歩くと汗ばむのですが、そこは標高980mにある山寺。肌へのそよ風が心地よく、とても気持ちよかったです。

そして、山門から大きな杉の木の間を抜け、石段を上ったところに本堂と大師堂があります。本堂と大師堂では、大きなリュックサックを背負った歩き遍路さんの姿も。さらに、外国人の元気そうな歩き遍路さんも数人見かけました。

クルマお遍路でめぐっている私としては、少し恐縮。参拝を済ませたあと、納経所で御朱印をもらい、駐車場代の500円を支払い、駐車場へ戻りました。

17番札所 井戸寺/井戸寺の名前は、弘法大師が錫杖で井戸を掘ったところ、一夜にして清水がわき出た逸話に由来する。

次の札所18番・恩山寺へは、国道438号を戻り、途中から県道33号と16号、そしてショートカットできる近道を通るルートです。しかし、近道を通ろうとナビをセットして進むも、細い山道が続き、私の愛車でも危険なくらい切り立った崖の連続。道路も整備されておらず、細い木枝が進路を塞ぎ、屋根のアンテナにひっかかってしまうほど。

ということで、このルートは断念し、国道55号へ。途中の温泉、えびすの湯で入浴と昼食をとり、安全なルートに戻って恩山寺へ向かうことに。

恩山寺では玉枝御前に、立江寺では延命地蔵尊に尊崇

恩山寺の駐車場に着いたら、歩いて境内を目指します。二階層のこぢんまりしたお寺で、下の階は手水場と大師堂が、上の階には本堂と鐘楼があります。

こちらのお寺は、第18番札所にある大師堂と同様に、玉依御前の剃髪所があります。玉依御前とは弘法大師のお母さんです。それは、弘法大師が修行していたときのこと。

「善通寺から母が大師に会いにきた。しかし、女人禁制のため、大師に会うことができず難儀していると、大師は女人禁制を解く修行をし、母と対面することができた」と伝えられています。母はこの寺で出家し、これにちなんで寺号を母養山恩山寺に変更したとも伝えられています。
 
また、出家の際に剃髪した髪が、玉依御前の剃髪所に納められているとの伝承もあります。いつの時代も母子の愛情は偉大です。恩山寺を参拝したときは、ぜひとも玉依御前の剃髪所も参拝することを、おすすめいたします。

19番札所 立江寺/お遍路に4カ所ある「関所寺」で最初に訪れるのが立江寺。花鳥風月などが描かれた天井画も特徴。

そして、次の立江寺。ここは、一国に一カ所ずつあった関所寺です。邪心がある者の行く手を阻む寺として、阿波の国に設置されたもの。

御本尊は延命地蔵尊。光明皇后の勅命により、創建した行基菩薩が当時彫像したご本尊が、あまりに小さかったとのこと。のちに、そのご本尊を拝した弘法大師が、後世の消失を危惧。新たに自身が彫像した1.9mもの地蔵尊の胎内に、その地蔵尊を納めたと伝えられています。

立江寺は大きなお寺で、山門から広い庭を進むと、階段を上った所に立派な本堂があります。本堂は1977年に再建。その際、本堂の天井には286枚の格天井画が奉納されており、これも一見の価値ありです。

本堂と大師堂を参拝し、御朱印も無事いただくことに成功。有料駐車場なので、少しお金がかかります。あまり多くのクルマは止められないのですが、山門近くには民間の有料駐車場もあります。また、立江寺は宿泊もできます。

道の駅ひなの里かつうら(徳島⑮)。 仮眠環境◎。新しい施設でトイレがきれい。夜も静か。RVパークひなの里かつうらが隣接しており、深夜も駐車場が明るく防犯状も安全。※文中の丸囲みの数字はスタンプラリーの番号です。

18時過ぎ、今夜の目的地・道の駅ひなの里かつうらに到着。早めに車中泊の準備をします。冷蔵庫にビールも冷えているので、旅記録を整理しながら夕食をとり、車内でのんびり。

すると、外から声をかけられました。クルマでお遍路旅をしているご夫婦! キャンピングカーに興味があるらしく、私の軽トラキャンパーを札所の駐車場で見かけていたようです。お遍路旅の情報を交換し合い、しばらく談笑しました。

あとで知りましたが、この道の駅には、RVパーク・ひなの里かつうらが隣接。キャンピングカー用のAC電源サイトが、1泊2000円で利用できるとのことでした。車中泊でお遍路旅の方には朗報です。

<16日目のお遍路データ>
走行距離 81km(累計2535km)
札所めぐり 3打(累計19打)
道の駅スタンプ 2駅(累計78駅)
札所めぐりのルート 
道の駅温泉の里神山→12番札所焼山寺→恵比寿の湯→18番札所恩山寺→19番札所立江寺→道の駅公方の郷(徳島⑦)→道の駅ひなの里かつうら(徳島⑮)
※文中の丸囲みの数字はスタンプラリーの番号です

 

旅人プロフィール 新井芳夫

●埼玉県在住
●車中泊歴40年以上
●主な車中泊スポット:全国各地(道の駅が中心)

愛車のスバル・サンバート ラックで四国お遍路旅を楽しむ旅人。実は40年以上も前から国産ワンボックスカーにDIYを施して楽しんできた、車中泊のベテランでもある。

写真・文/新井芳夫
構成/野里卓也
出典/カーネルvol.42早春号

 

★カーネル vol.47 2020秋号 9月9日発売!★